60年代のTVCM

俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカ〜


この「60年代のTVCM」のコーナーで既に紹介させていただいた上方コメディアンの大村昆(正しい字は上に山がつきます)のオロナインなどともに、番組出演者による生CMの代表作品と言えるのが、同じ上方コメディアン(?)の藤田まことの前田製菓のクラッカーのCMであります。
このCMは、番組の冒頭で、番組のタイトルがあしらわれた、祠の観音開きの扉がぎぎーっと音をたてて開いて、主役の藤田まことが登場すると、番組の中で悪役を演じる出演者が絡んできて、藤田まことがいとも簡単に悪役をひねりあげてしまいます。

そして、おもむろに懐に手を入れ、「俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」といいながら、前田製菓のクラッカーをTVカメラに向かって差し出すという、それだけのものでしたが、この「あたり前田のクラッカー」というフレーズは、それこそ、当時、文字通り、老若男女を問わず、という感じで、いろいろな局面で使われる大変な流行語になったことを、昭和30年生まれの私は、リアルタイムではっきりと記憶しております。TVを軽佻浮薄の代名詞として嫌っていた私の親父でさえ、このフレーズを口にしていたほどですから、その浸透ぶりたるや、大変なものだったのではないかと憶測されるわけであります。

この番組には、その当時のいわゆる流行歌手が登場し、番組の中で、その時々のヒット曲を歌う構成になっておりました。ですから、たとえば、三田明が出てきたりすると、「カリブの花」などという、どう考えても、てなもんや三度笠という股旅ものの舞台劇には似つかわしくない、その時の自分の持ち歌を、ストーリーとは関係なく、突然、本当に、唐突といってもいいくらい突然に、「エルビラー、エルビラー、カーリブのはーなー」とか言って歌い出すという、実に、荒唐無稽な展開になっても、テレビの前の私たちはもちろん、客席の皆さんも、それを自然に受け入れてしまうという、実に、おおらかな時代だったわけであります。
主役を演じていた藤田まことは、テレビの必殺シリーズをはじめ、大物俳優として活躍を続けていらっしゃいますが、先日、いわゆる「あの人は今…」形式のテレビ番組を見ていたら、藤田まことが演じていたあんかけの時次郎と二人旅を続ける珍念役だった白木みのるも、どこか温泉地に別荘をもち、すでに悠々自適の生活を送られているとのことでありました。


〔資料〕
■「テレビ史ハンドブック」(自由国民社)
「てなもんや三度笠」(TBS系列)
 あんかけの時次郎(藤田まこと)と珍念(白木みのる)の二人の旅道中に起こるいろいろな珍事件を描くコメディで、公開録画番組だった。当時の藤田まことは、無名ではないとしてもまだ主役クラスではなかったので、とくに関西の大物が共演を渋った。そのため主に関東から大物ゲストを招いて厚みを加えながら藤田らのチャレンジ精神を奮い立たせようとした。奇声を発する財津一郎ら脇役の人気も出たし、番組のオープニングに行われる生CM「俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」も大人気だった。
 関西地区での視聴率が60%を超えたこともあり、上方コメディの決定版としてテレビ史に残る番組。朝日放送制作、脚本・香川登志緒、演出・澤田隆司。1962年5月〜1968年3月。







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