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山口百恵デビュー25周年特別企画
70年代アイドル“不死鳥”伝説
山口百恵ディスコグラフィー
(2)春風のいたずら/ひと夏の経験
「春風のいたずら」(千家和也・作詞、都倉俊一・作曲、馬飼野俊一・編曲)
1974(昭和49)年3月発売
デビュー第4弾となる「春風のいたずら」は、デビューの翌年の1974(昭和49)年3月1日のリリースでした。
この「春風のいたずら」は、前々作の「青い果実」や前作の「禁じられた遊び」なんかの歌詞に比べると、当時のいわゆるアイドル達が歌っていた曲に近いものに戻りました。
週間チャートの最高位が11位、売上枚数では約16万枚ということで、「青い果実」が20万枚、「禁じられた遊び」が18万枚だったことを考えると、徐々に勢いが落ちてきたのかなというような印象ではあります。
とはいえ、この年の7月には、FNS歌謡祭音楽大賞(上期)の歌謡音楽賞を受賞しています。
個人的にいいますと、この曲を聞くと、私が受験のために上京し、小田急線に乗って町田の連れ込み旅館に下宿していた中学時代の友人の部屋を訪れた時のことや、その後、荻窪にアパートが決まり、友人と二人で東京での生活を始めた頃のことが思い出されます。身分的にも浪人ということになって、中ぶらりんで不安な気持ちがある一方、家を離れて自分たちだけで生活するという自由な気持ちも入り混じった、当時の複雑な心境が鮮やかに甦り、切ない気分にさせる曲なのであります。
楽曲としては、詞も曲も職業作家である千家和也と都倉俊一がソツなくこなしただけという感じは否めませんが、それでも、私にとってはサビの「恐いわ、恐いわ、恐いわ」の部分が、何となく私の当時の気分に妙に重なるところがあって、思い出に残る一曲となっています。
山口百恵の芸能活動という側面からいうと、前年10月からこの曲がリリースされた1974年3月まで、TBS系列で放送された「顔で笑って」に出演、後のTBSのドラマシリーズへの伏線となりました。
「ひと夏の経験」(千家和也・作詞、都倉俊一・作曲、馬飼野康二・編曲)
1974(昭和49)年6月発売
5作目の「ひと夏の経験」は、きっちりローテーション通り、中3カ月のインターバルで、1974(昭和49)年6月1日に発売されました。
この曲では、再び、いわゆる“青い性”路線の雰囲気を濃厚に漂わせる歌詞が世間の話題となっていきます。
「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」
「愛する人に捧げるため 守ってきたのよ」
「誰でも一度だけ経験するのよ 誘惑の甘い罠」
時期的に言うと、ちょうど、殿さまキングスの「なみだの操」が業界にとっても久々のミリオンセラー(最終的には200万枚近くも売れました)となる大ヒットを記録している最中で、その曲のイメージをインプットしたままで、こういった刺激的な表現の「ひと夏の経験」を聞いてしまったオジさん達は、そういう文脈の中で山口百恵の歌を捉えることになってしまうというような図式になっていたわけです。
実は、「なみだの操」も「ひと夏の経験」も、どちらも、千家和也の作詞でありまして、千家和也が相乗効果によって、またまた、オジさん達を挑発してやろうと考えたかどうかは定かではありませんが、ただ、時期的には、かなり絶妙のタイミングだったことは確かです。「なみだの操」は前年の11月発売ですが、じわじわとチャートを登り続け、この年3月第3週の週間チャートで1位にランクされた後、5月第2週まで連続9週にわたって1位をキープ、千家氏が「ひと夏の経験」を作詞したと思われる4月頃は、まさしくヒットのピークでありました。
それはともかく、「ひと夏の経験」は、週間チャートの最高位が3位、売上枚数も45万枚を記録、山口百恵にとっては、デビュー以来、最大のヒット曲となり、同時に、この曲は「青い果実」以上に世間を刺激する結果となったのです。
山口百恵は、『蒼い時』の中で、当時の世間の騒ぎ方を次のように振り返っています。
「『ひと夏の経験』、この歌を歌っていた時期が大人たちのさわぎのピークだった。インタビューを受ければ十社のうち八〜九社までの人間が必ず、口唇の端に薄い笑いをうかべながら上目づかいで私を見て、聞くのだった。
『女の子の一番大切なものって何だと思いますか』
私の困惑する様を見たいのか。
『処女です』、とでも答えて欲しいのだろうか。私は全て『まごころ』という一言で押し通した。確かに歌として見た場合、きわどいものだったかもしれないのだが、歌うにつれ、私の中で極めて自然な女性の神経という受け入れ方ができるようになっていた。もちろんその頃はまだ想像の域を脱してはいなかったのだが、それでも女の子の微妙な心理を、歌という媒体を通して自分の中でひとつひとつ確認してきたように思う。その意味で私は、歌と一緒に成長してきたといっても過言ではない。」
ということで、さりげなく日本の男達の貧困な性意識というか女性に対する偏見に対して鋭い批判の目を向けたりしている文章を読み返すと、『蒼い時』という本は、実は、単なる歌手の自伝という域を超えた一つの女性論にもなっていることに気づいたりするわけです。
もちろん、それは、この本をプロデュースした残間理江子の主張でもあるのだろうと思いますが、やはり、山口百恵という一人の歌手の生き方に、それなりの主張があったということの裏返しでもあるのかもしれません。
何れにしても、「ひと夏の経験」は、間違いなく山口百恵の初期の代表作の一つであり、この曲で第25回紅白歌合戦初出場を果たしたほか、第16回日本レコード大賞の大衆賞や第5回日本歌謡大賞の放送音楽賞、第1回横浜音楽祭の音楽祭賞、第7回日本レコード・セールス大賞のシルバー賞を受賞するなど、前年のうっぷんを晴らすかのように主立った賞を総ナメにしたのでありました。

(C)1997 Kiyomi Suzuki
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