サイボーグ009 
石ノ森章太郎の生涯を通じての代表作と言って差し支えないと思われる作品が、この「サイボーグ009」です。
1964(昭和39)年7月から、前年の8月に創刊されたばかりの『週刊少年キング』で連載が開始され、その後、『週刊少年マガジン』など他の媒体でも書き継がれ、新聞報道などによると、亡くなる直前まで、「009は未完なんだ。あと10年は書きたい」と話していたそうで、2012年を舞台に神々と戦う「天使編」という構想だったことも明らかにされました。
恐らく、本人としても、手塚治虫が「火の鳥」を終生のライフワークと位置づけていたのと同じように、自分にとってのライフワークが「サイボーグ009」であるという考え方でいたのであろうことが偲ばれます。
当時のことで言いますと、『週刊少年マガジン』、『週刊少年サンデー』に遅れること5年も経ってから創刊された『少年キング』は、子供の目から見ても、後発雑誌として苦労しているのだろうということが感じられ、内容的にも、目を引く作品は「0戦はやと」「少年忍者部隊月光」くらいで、いま一つアカ抜けない雰囲気が漂っていたものですが、その辺りの印象を大きく変えることになったのが、この「サイボーグ009」でした。
『キング』は、結局、最後まで『マガジン』と『サンデー』に水を開けられたままでしたが、この石森章太郎の「サイボーグ009」と望月三起也の「ワイルド7」の2つは、『キング』に連載された骨太のストーリー漫画として私の記憶から消えることはないでしょう。
と偉そうなことを書いておりますが、実は、「サイボーグ009」も「ワイルド7」のどちらも、『キング』に連載されている時には、あまり、リアルタイムでは読んでいませんでしたが、高校に入ってから、同級生のK君が、この「サイボーグ009」の単行本を、当時の時点で全巻揃えて持っており、彼の家に遊びに行っては、むさぼるように読んだものでありました。
漫画の中には、連載のコマ切れで読んでも、あまり、その良さが分からず、単行本でまとめて読むと非常に面白いという作品がよくあるわけですが、この「サイボーグ009」などは、その典型的な作品だったような気がします。
朝日ソノラマの復刻版では、そのストーリーの骨格が次のように解説されています。
「悪の組織『ブラック・ゴースト団』は世界各地に戦争を起こし、武器をうりさばく“死の商人”。彼らは太平洋の孤島に本拠地を構えて改造人間=サイボーグの研究をしていた。
だがサイボーグの研究を強いられていたギルモア博士と博士の作り出した9人のサイボーグ戦士達は、ブラック・ゴーストの手を逃れ、平和のために戦うのである!」
テレビアニメは1968年からNET(現テレビ朝日)系列で放映されていますが、テレビに先行する形で、1966(昭和41)年7月と翌1967(昭和42)年3月に東映動画により劇場公開されており、私も、どちらかは忘れましたが、映画館で、この「サイボーグ009」を観た記憶があります。多分、夏休みや冬休みに映画館でアニメ特集のような形でやる“東映まんが祭り”のような企画は、この「サイボーグ009」の頃からだったような気がします。
劇場版では、009の声を太田博之、006の声を藤村有弘が演じていたそうです。
009誕生の経緯も、朝日ソノラマの復刻版から紹介させていただきましょう。
「オートレーサー・島村ジョーは、レースの途中、事故を起こし重傷を負った。すぐさま、かけつけた救急車は、病院へ向かわずに、海へまっさかさまに飛び込んだ。救急車は実はニセモノで、世界的な犯罪組織ブラックゴースト団の水陸両用の自動車であった」
ということで、島村ジョーは、ブラックゴースト団の手によってサイボーグ009として再生されたわけであります。ちなみに、009内部図解の文字は、この画像では見えないと思いますので、上から順に、書き出してみます。
「記憶用人工頭脳」「人工毛髪」(私も欲しい!)「無線通信器」「人工聴覚装置」「加速装置スイッチ」「嗅覚強化器」「頭部温度調整器」「気圧調整器」「人工肺」「人工心臓」「人工胃」「真空地帯・高圧地帯防護膜」「スーパーガン」「エネルギー交換装置」「エネルギータンク」「人工皮膚」「栄養液タンク」「血管・栄養液管」「血圧調整器」「人工筋肉」「人工骨」「超弾力性長靴」
こうした図解こそ、SF漫画に積極的に取り組んできた石森章太郎氏の真骨頂といえるかもしれません。
この「サイボーグ009」では、SFならではの様々な小道具や技が使われ、白熱した戦いが繰り広げられましたし、僕が好きだった「ミュータント・サブ」では、色々な超能力が登場して、読むものの想像力をかきたててくれました。少女ギャグ漫画だった「さるとびエッちゃん」も、そうしたSFテイストが隠し味になっている作品でした。
70年代に入ってから、一世を風靡することになった「仮面ライダー」や「人造人間キカイダー」なども、基本的には、すでに、この「サイボーグ009」に象徴される60年代の多くの石森SF作品の中に、その原型が含まれていたと言ってもいいのではないかと思います。
ウチの長男と次男が暫く前に熱中していたスーパーファミコンのソフトで「ザ・グレイトバトル〜新たなる挑戦」というのがありますが、これは、ウルトラマンと仮面ライダーとガンダムを交互にキャラクターとして使いながら、7つのステージをクリアしていくもので、それになぞらえると、子供達のスーパーヒーローの系譜ということでは、60年代がウルトラマン、70年代が仮面ライダー、80年代がガンダムというような感じだろうと思います。
その意味で、仮面ライダーも、また、石森氏の代表作であることは間違いないでしょうが、その原型をも内包し、日本のSF漫画に先べんをつけたという意味合いからも、やはり、「サイボーグ009」は、紛れもなく、石ノ森章太郎という漫画家の最大の代表作と言えましょうし、特に、1960年代に、リアルタイムで、こうした素晴らしい漫画を楽しませてくれた石ノ森氏に改めて感謝の気持ちを感じるわけです。
最後に、改めまして、石ノ森氏のご冥福を心からお祈り申し上げます。
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