PSU-Portable2
「たいせつなもの」の考察
◆サリサからエミリアへ託されたメッセージ
はじめに:PSZとPSU-Po2の関係について
PSZ(Phantasy Star ZERO)とは
ファンタシースターゼロ(PSZ)は、2008年にSEGAより「ファンタシースターオンラインへの原点回帰」を求めて製作されたニンテンドーDS用ゲームソフトの事である。
開発の背景には、当時「ファンタシースターオンラインの続編」として大いに期待を背負っていたネットワークゲーム「ファンタシースターユニバース(PSU)」が製作側及び運営側の大きな手抜かりにより、生粋のファンのみならずか一般ユーザーからも多大な怒りを買い、SEGAがユーザーに見放された経緯がある。「早くファンタシースターオンラインの形に戻せ!」というクレームはもちろん、パッケージの返品を拒否する小売店が出た事から詐欺容疑でSEGAを訴えようという暴動じみた活動や、パッケージの不買運動まで行われかけた。
PSZはPSUによって地に落ちた「ファンタシースター」のマイナスイメージを払拭するため、本気で「ファンタシースターオンライン」を作り直した作品である。キャラクターの多様性、敵キャラクターに対する攻略性、システム面での簡略化、などPSOの基本的な部分を受け継いだ良作となった。しかしながら、「ストーリーの内容が子供っぽい」「DSの解像度では話にならない」「いくら作っても好みのキャラクターにならない=萌えられない」といった、いわゆる本質よりも付加価値に重点を置く「エロゲー的批判」の強い弾圧を受け、全体的な評価は低く、小売店でも980円のワゴンセールで売られる駄作というレッテルを貼られている。また「ワイヤレスや手書きチャットではろくに楽しめない」「DSでは操作がおぼつかない」といった理由で食わず嫌いを主張するユーザーも少なからずおり、評判は芳しくない。逆に言えば、昔ながらのアクションゲームを楽しめているプレイヤーにとっては980円なら確実に”買い”の作品であろう。一度で終わるストーリーよりも、ストーリーの百倍は時間を費やすであろう鍛錬、収集、攻略のボリュームにかけてはファンタシースターオンラインのそれを凌駕しかねない。
さて、前置きが長くなってしまったが、PSZにおけるメインヒロインに「サリサ」というニューマンの少女がいる。PSZのストーリー設定ではヒューマン、キャストは過去に災禍を引き起こした種族とされ、ニューマンはそれを危険因子として監視し、統制するという役目がある。彼女は純粋無垢な少女でありながら、ヒューマン、キャストを偵察するという目的で町に派遣された”監視員”の一人なのだ。後々にその世界設定は覆されるのであるが、サリサはニューマンの中でもいち早くヒューマンとキャストの温かみや優しさ、歴史のウソに気付き、主人公や人々との絆を通じて、信頼できる仲間や種族を超えた家族を得ていくという成長物語を見せてくれている。エンディングテーマには彼女の気持ちが歌われているともとれる歌詞が付き、物語の完結と未来への期待を見事に表現しきった。
ここまでの深い内容でありながら、前述の前評判によりこのテーマ性と表現力が評価される事は少ない。文章は子供だましかもしれないが、「シナリオライターが伝えたかったテーマ」をストレートに感じ取れるわかりやすい作品は得てしてユーザーからは高評価を受けるはずである。これはいわゆる「子供向けアニメ」が描こうとする「たいせつなもの」に他ならず、大人の面々が鼻で笑ってはいけない場所でもある。普段笑顔を出さない人間ならば、子供を感動させる作品が出来るまでにいかに険しい道のりがあるかはわかるだろう。結局のところ、これまでテーマ性を上手に表現しながら、この良作は埋もれていってしまったのである。
PSU-Po2(Phantasy Star -Universe- Portable 2)とは
ファンタシースターポータブル2(Phantasy Star Portable 2)は、2009年にSEGAより「ファンタシースターユニバースの完全な焼き直し」として製作されたプレイステーションポータブル用ゲームソフトの事である。略称に関してはプレイステーションポータブル(PSP)と同じ頭文字になってしまう事から、様々な試行錯誤がされている。単に”PSP2”と書く事もあれば”PSPo2”と書く事もある。一般的には”PSPo2”とされるが、このサイトでは「あくまでユニバースのメジャーバージョンアップ版」として扱うため、PSU-Po2と書かせてもらっている。ちなみに著者がこの作品を呼ぶときは、ポータブル1でも感じた締まりのないニュアンスを表現するために「ファンタポー」と呼んでいる。
作品の出来としては、ユニバースから比べてようやく評価できるレベルになったというものである。ユニバースで劣悪とされた戦闘アクションやインターフェイス、シティシステムに関しては要素追加や見直しがなされ、「ファンタシースターユニバースの画質、キャラクターでファンタシースターゼロが遊べる」と言っていいものに仕上げた。実を言うと、ファンタシースターポータブル2になってから追加された点というのはほぼ無く、武器カテゴリ「シールド」および盾での攻撃の追加、「緊急回避」の追加、「チェイン要素」、「チャージ要素」、「上昇、下降補助テクニックの画一化」、「キャンプ的な簡略シティ」といった好評の部分はほとんどがPSZからの流用である。新規追加点で評価できる点があるとすれば、防具用のパレットの追加、自己視点攻撃による射撃能力の強化、射撃武器の腕力依存からの脱却、自動反射チャットの採用などだろうか。
さて、ファンタポー2にもメインヒロインがいる。「エミリア」というこの少女は生まれた時から天涯孤独の孤児という設定で、家族の温かみを知らない典型的な野良猫少女である。裏切られる事に警戒し続け、誰にも決して気を許さず、誰かが下手に近づけば傷つける事に等しく、しかし寂しさを抱え、辛さを抑えるために弱音だけは吐き続ける、現代の若い世代ならば一度は身に経験のある心情であろう。彼女に足りないものは、「圧倒的な愛情」である。無償である必要はなく、また考える事を許さないほどに怒涛の、圧倒的な愛。
彼女は自分を特別扱いはせず信頼さえしてくれる仲間たちと触れあい、憧れの対象である主人公と親密に接する事で裏切りに対する恐怖から解放され、人を信じ心を許す事ができるようになっていく。それに伴い、若干のからかいや不安も受け入れられるほどに精神的な余裕を持っていく。彼女を変えたのは家族の愛か?それとも恋か?いずれにせよ、絆を通じて家族を得ていく成長物語が描かれている。そう、このストーリーのテーマは絆。…サリサと同じではないか。
「孤独な身から家族を得るヒロイン」というキャラクターの類似性
サリサが伝えたかったもの、エミリアがほしかったもの
サリサとエミリアは生まれた境遇こそ違うものの、前者は「真実を知らなかった事による不信感」、後者は「裏切られた精神的な傷による不信感」により、絆を信じられない状態にあった。サリサのそれはさほど病的ではないが、一見心を許したように思える仲間や主人公にさえ、真実や身の上を語ろうとしなかった部分では、彼女も若干の不安を抱えていたと言える。対して、エミリアは病的だ。
キャラクターとして感情移入しやすいのはどちらか?を考えた場合、特務調査部隊のエージェントであるサリサの境遇と自分を照らし合わせられる人物は少ない。サリサがさほど悩んでいないように描写されるせいもあり、圧倒的にエミリアに票が集まるだろう。この分かれ目が、同じテーマを与えたにも関わらずストーリーでの評価に差を設けてしまった。裏を返せば、開発者はエミリアを不遇な少女(≒雨に濡れた子犬)として生まれさせる事でユーザーからの愛情を一身に集めたのである。
なぜ、そこまでする必要があったのか?それはPSZの業績が芳しくない事から推察できる。「たいせつなもの」をテーマとして生みだした作品――メッセンジャー――が画質や操作性といった本来とは違う場所で低い評価を受けてしまっては忍びない。PSOのキャッチコピー「英雄は、ひとりじゃない。」に見受けられるように、ファンタシースターを題材にしたオンライン対応RPGは全て、隔たりを超えた人との繋がりをメッセージとして訴え続けている。その精魂こめたメッセージのうち、PSZは完全に不発に終わってしまったのだ。ならば、同じ想いを違う形でぶつけて今一度是非を問う事も出来れば、同じテーマでもう一つ作品を残す事ができるではないか。私が思うに、サリサは自分が伝え切れなかった事を、エミリアに託したのだ。そしてインターネットマルチモードに接続している人数や店頭での本作品の売れ行きを見る限り、エミリアはそれを見事に人々に伝えきったと言えよう。
「たいせつなもの」の歌詞に見受けられる、ストーリーの伏線
Story Chapter7「たいせつなもの」の意味
以上の考察を裏付ける決め手となっているのが、ファンタポー2ストーリーモード第7章のタイトル「たいせつなもの」だ。これがひらがなで書かれている理由は一つしかない。それはPSZのエンディングテーマの正式名称が「たいせつなもの」だからだ。ストーリーモード第7章には、サリサの声が届けられている。
第7章では、家族のようなものと信じてきた仲間達から村八分の扱いを受けたと勘違いしたエミリアが行方をくらまし、それを必死で探しに行くというエピソードである。エピソードの最後に主人公を含めた仲間達がエミリアを暖かく迎え入れ、絆を深め再確認する内容だ。ここでファンタポー2が託されていた「サリサからのメッセージ」は完結する。第8章からは家族の絆から一転して世界を救う為のヒロイックストーリーが描かれる為、実質のところファンタポー2が伝えたい事は第7章でほとんど伝えてしまっているのだろう。
「たいせつなもの」の歌詞がPSU-Po2のストーリーとリンクする点
"PHANTASY STAR ZERO" Original Sound
Trackに同封されているライナーノーツより歌詞を抜粋。指摘があれば撤去します。
(C)SEGA 2008、Yumie Fuwara
Cry 溢れ出すナミダ 見てないフリしてくれたね
Smile 他愛ない話 いつのまにか笑ってたね
明日の行き先さえも 見失いそうな時
どれだけその光に 救われたんだろう
ボクは一人じゃない
そう信じてもいいかな?
君のその笑顔が 答えに変わる
※エミリアと主人公の関係、及びエミリアとチェルシーの関係、パートナーシップの伏線と見れる。サリサにとっても、エミリアにとっても、必要だったもの。
Sky 空に手を伸ばし 掴めないと嘆くよりも
Try 手と手を繋いで 笑いながら歩き出そう
誰もが同じじゃなくて 凸凹(デコボコ)だらけでも
繋げばかけがえない ”ひとつ”になれるから
※掴めなかったのは遠い憧れの象徴である空。サリサにとっては仲良しの家族、エミリアにとっては失った両親とも実力の強さとも取れる。手と手をつないでみるのは、サリサならばハンターズの仲間、エミリアならばリトルウィングのメンバー。どちらにも全ての種族がそろっており、団結すれば隔たり無くひとつになれる。
キミを想うだけで
それだけで強くなれる
やっとわかったんだ たいせつなもの
遠く光る太陽
僕達を照らしている
ずっと守りたいよ たいせつなもの
※エミリアが憧れの対象である主人公を想うだけで本当の実力を発揮するシーンがある。はじめの「たいせつなもの」はそれの伏線。エミリアの精神的な支えになっている「ミカ」という人物が太陽と結びつくシーンがある。最終的にエミリアは主人公だけではなく、世界全体を救いたい、守りたいという使命的な感情に目覚める。2つ目の「たいせつなもの」はそれを表しているとも読み取れる。
キミを想うだけで
それだけで強くなれる
やっとわかったんだ たいせつなもの
ボクは一人じゃない
たとえ離れてる時も
それはキズナという たいせつなもの
※エミリアとしては「あれこれ考えるけど、やっぱり私のパートナーが一番」という描写が何度かある。リフレイン部分も彼女の気持ちの表れとリンクすると微笑ましい。最後の3行は「ミカ」が教えてくれたこと。エミリアにとっての再帰を決定付けた言葉と言える。
こうやってみると、ファンタポー2のストーリーモードはむしろこの歌詞から物語を紡いだのではないかとさえ考えられてしまい、興味深い。