光栄(現:コーエーテクモ)の歴史シミュレーションといえば「信長の野望」や「三国志」シリーズが有名ですが、隠れた名作と名高い「水滸伝 〜天命の誓い〜」も忘れる訳にはいきません。
今回は「水滸伝 〜天命の誓い〜」を取り上げたいと思います。
中国の物語「水滸伝」をベースにしたシミュレーションゲームです。
舞台は宋の時代。高キュウ(キュウは人偏に "求")は身分の低い人物であったが蹴鞠が得意ということが切欠でとんとん拍子に出世し、微宋皇帝の時代には大尉の位まで上り詰めた。しかし、彼は朝廷の他の奸臣と共に私利私欲の為に権力を振るったため、国は乱れていく一方となった。
国の腐敗を食い止めるために微宋皇帝は各地をねぐらとしている、山賊に高キュウ討伐をさせようと考えるのであった。
彼らは元々は朝廷に仕える善良な役人や軍人達で、冤罪や仲間のために罪を犯したことで職を捨てて逃亡し、山賊となっていた者達であった。彼らは宋国のために高キュウ打倒の兵を挙げるのであった…
プレイヤーは好漢を1人選び、他の歴史シミュレーションゲーム同様に国を造り軍隊を雇っていく…と言う流れは同じなのですが、目的が全国制覇ではなく23国開封府に居る高キュウを捕らえることです。
高キュウさえ捕らえてしまえば全国を領土にする必要は全くないです。しかし、高キュウの居る開封府を攻めるには微宋皇帝からの勅命が必要であり、勅命は「人気」というパラメータを250まで上げることで得られますが、かなり長い時間と手間を必要とします。
基本的には「信長の野望」などの様な『内政と隣国への戦闘を繰り返す国取りシミュレーション』という流れなのですが、高キュウ勢力の官軍がかなり高い戦力を持っているので並大抵では敵いません。裸一貫の状態から国を興し、人気を高めつつ部下と兵士を集めて軍を造り…と徐々に自勢力を強化していくのはある種シミュレーションゲームと言うよりはロールプレイングゲームに近い感じもあります。
しかし、自勢力の育成には余り時間をかけられません。このゲームはリミットがあり、1127年1月になると金国の侵略により強制ゲームオーバーとなります。如何に無駄のない攻めが出来るかどうかというのも攻略のポイントとなります。
シナリオは4つあります。シナリオ1は1101年で物語序盤の頃。1127年まで時間が有るものの、全員逃亡中(兵どころか国すら持っていない状態)であることと、官軍には優秀な人材が多数居るため、ねぐらを見つけて人物(このゲームでの配下武将)と小者(このゲームでの兵士に相当)を集めるところから始める必要があります。。
逆にシナリオ4は1105年ですが、官軍の優秀な人材が梁山泊側に移ってしまったためにそれなりに楽になっています。
「人気」を得るためには、「国の共鳴度(他作品で言う民忠誠度に近い)を一定以上上昇させる」「自国に猛獣が出現したときに退治する」「梁山泊の首領になる」の3つがあります。
共鳴度は住民に食料を施すことで上昇。領土拡大していけば必然的に人気が上がっていくことになります。
「猛獣」は冬以外の季節の変わり目にまたに出没します。狼、豹、虎、熊のいずれかで退治すると人気が上がりますが、小者を消費するだけでなく、小者が少ない人物が退治しに行った場合は大怪我や死亡することもあります。
「梁山泊」は第10国と20国を所有し、共鳴度を一定以上あげると発生。人気が100上がるため、勅命への近道となります。
ゲームの流れは、プレイヤーの選んだ好漢が逃亡中であれば空白地を探して移動します。国は49カ国ありますが、領主が居るのは10国前後なので好きなところをねぐらに出来ますが、当然他の国と隣接していれば戦闘になることも有るので、場所選びも結構大切です。
ねぐらを決めたら、国づくりです。コマンドは月に1度しか出すことが出来ない上に自国のほかの領土は義兄弟が居ない限りは直接命令が出来ない(常時CPUに委任状態)という特徴があります。
このゲームの人物(好漢・部下)は全255人で物語り登場人物の大半は居ます。ちょい役な人物や女性も居ます。
彼らは以下の能力パラメータを持っています。「腕力」「技量」「知力」に関しては関連するコマンドを実行することで経験値が上昇し、一定以上たまると能力値が+1されます。
[ 腕力 ]
戦闘時の攻撃力と力仕事の効果に影響。
[ 技量 ]
器用さを示す能力で、40以上なら消火(火計の対抗手段)、60以上で弓矢攻撃、85以上で弓矢攻撃にクリティカル判定(人物に直接ダメージ)が可能になる。
また、製造の条件にも影響する。
[ 知力 ]
頭のよさを示す能力で、60以上で火計。80以上で妖術。90以上で妖術の効果範囲が1マス広がる様になり、戦闘の幅が広がる。
知力90以上と知力80以上で腕力がそれなりにある人物は敵に回すと結構面倒。
[ 体力 ]
コマンドを実行する場合にこれを消費して行われる。体力が低くかつ忠誠度が低いと命令を拒否されることもある。
毎月5ずつ回復するが、宴会や休息を行った場合は更に上昇する。
戦闘時に小者が居ない(または全ての小者を失った)人物が戦闘に参加している場合、体力値が赤字で表示され、これが0になったら捕虜になる。
[ 操舵能力 ]
船を操る能力でこの能力の有無は絶対に変わらない。
操舵能力があると、川に流されにくくなるのと船の製造が可能になる。
能力値の中でも書きましたが、特定の能力値が一定以上ある場合、特別なコマンドを実行することが出来ます。
腕力が高いからと言って強い訳でないのが結構よく出来ています。
[ 妖術 ]
戦場の天候が曇りのときで知力が80以上で体力が50以上のとき、体力を40消費して実行することが可能。
知力が80台なら2マス、90以上なら3マスの範囲内の敵全部に攻撃を仕掛けます。ランダムで成功か失敗し、成功すると大ダメージ+数ターン行動不能という大きなメリットを得ることが出来ます。
実行者はノーダメージなのですが、戦場では体力は40以上は増えないので、体力が50未満で戦場に出しても妖術を使うことが出来ません。基本的には知力80以上の武将は(知力経験値が増えるコマンド以外で)余り働かせない方が戦闘で有利になります。 また、敵に妖術使いが居るときは固まって近づき過ぎないように注意が必要です。
[ 弓矢攻撃 ]
技量が60以上ある人物は戦闘中に1マスはなれた敵にダメージを与えることが出来ます。使用回数に限りがあり、味方の武装度に依存します。白兵戦よりは威力が低いですが、自分がダメージを受けないというメリットがあります。
技量が85以上あるとランダムで人物に直接ダメージを与える(体力を減らす)ことが出来ます。とはいえ、体力を多少減らしただけでは極端に大きなメリットに繋がることが少ない気がしないでもない…
以下の「仁愛」「忠義」「勇気」のパラメータもゲーム中は絶対に変わることがありません。
これらは人物の性格を現しており、3つの中で最大値の種類と値で人物同士の相性が決まります。
例えば、好漢が「仁愛」が最も高い場合は「仁愛」が最も高い人物を仲間にしやすかったり義兄弟になりやすかったりします。しかし、その最大値が好漢よりも人物の方が高い場合は逆に相性があまり良くありません。
「同じ能力値が最も高くかつ好漢よりも低い場合は義兄弟になりやすい」と覚えて置くと良いでしょう。
[ 仁愛 ]
人を思い遣る能力で、高いと施しの効果が高いが調達の効果が低い。
[ 忠義 ]
本人の真面目さを表し、高いと訓練の効果が高いが宴会の効果が低い。
[ 勇気 ]
本人の勇敢さを表し、高いと狩猟の効果が高いが外交の効果が低い。
他には「忠誠度」と「年齢」のパラメータがあります。
「忠誠度」はシミュレーションゲーム御馴染みの部下の忠誠を表す値ですが、このゲームでは「部下がランダムで在野に下る」「部下が高キュウ側に寝返る」というマイナスイベントがあり、その条件が季節の変わり目で忠誠度が一定以下のときに発生することがありますが、約40を下回らないと発生しないので、忠誠度は40以上あれば殆ど問題ありません。
また、「忠誠度」が95以上ならば義兄弟を申し込むことが出来ます。
「年齢」というパラメータがありますが、このゲーム上では寿命は無く、義兄弟が好漢との年の差で「義兄」か「義弟」のどちらになるかの違いくらいです。
寿命は無いものの、人物は「戦闘で捕まり、処刑される」「(小者が少ない状態で)猛獣退治をして失敗したとき」「民の暴動に巻き込まれる」でしか死亡します。
また、好漢は処刑以外では死亡しません。
ゲームはこのような流れで進行し、高キュウを捕らえればクリア。「好漢が戦闘で捕まり処刑されるか捕虜になる」「1127年1月になる」とゲームオーバーです。
余談ですが、オリジナル版(PC-8801やPC9801等)の処刑によるゲームオーバーは一回見ておいたほうがいいかも…当時にしては中々気合の入った演出です。
コマンドと人物の能力を駆使して軍隊を作り、最後にはラスボス高キュウを撃破する…しかも敵は強大でしかも制限時間があるためにのんびりできない…というプレッシャーもあってか、ゲームとしては「信長の野望」や「三国志」とは違った、官軍をしのぐ国力と軍力構築のために迅速かつ的確な判断を要求されるという楽しさがあります。
ロールプレイングゲームと例えましたが、昨今の「戦えばだいだい何とか勝てる」なんて温い内容ではないです。
その分、難易度も高いですが、他では味わえない楽しさを持った内容かなと思います。
登場人物が個性的なのもこの作品の特徴のひとつでしょうか…台詞が秀逸な物が多いです。
コマンドを実行すると「自分の力しか頼れないな」「はいはい、分かりました」「人使いの荒い親分だこと」「僭越ながら承ります」「おいらに任せてくれ」、命令拒否時には「気が乗らないときもあります」「少し疲れたな…」「たまには休みをください」「ふんぎりがつかぬわい」 女性武将を捕虜にしたときの「痛いからきつく縛らないで」…など台詞のパターンがが多数あります。
武器屋の主人から武器を購入すると客相手に『どうせ悪いことに使うんだろ』と言われたり…
細かいところに気合を入れているもので…
また、官軍が攻めてくるときは必ず事前に賄賂を要求してきます。
「宋国に仇なす無頼漢どもめ!! 本来なら討伐するところだが、金****で見逃してやろう」と言われます。これを拒否すると高い確率で敵が攻めてきます。
賄賂を要求する辺りが、いかにも腐敗した官軍らしくて良い演出です。
このゲームは兵士が少なめでもある程度腕力を持っている人物が多数居るとの官軍が賄賂を要求してくるので、返り討ちにして武将を捕らえて弱体化させる…と言う手がありますが、どうしても勝てない状態ならば、払ってしまえば敵の侵略を防ぐ手にもなるので賄賂の対処は結構重要ポイントです。特に勅命がないと攻め込めない開封府の弱体化を狙うには必須に近いテクです。
個性といえば、四季の表現も個性的です。
3月〜5月が春。6月〜8月が夏。9月〜11月が秋。12月〜2月が冬になっています。
季節ごとに通常時と戦闘時の音楽が変わりますが、8曲それぞれが中々の名曲…シンプルながらも季節感を感じさせてくれます。
また、戦闘時のフィールドにも変化が起こり、春なら曇りが多い(妖術師が大活躍)、夏は晴れが多い、秋は(枯葉が多いため)火計が成功しやすい、冬は湖が凍り、船がなくても移動できる…と細かいところに影響がでます。
ゲーム上大きなポイントと言うほどでもないですが、季節を利用すると優位に進めることもあります。
高キュウを捕虜にした時点でゲームが終了しますが、エンディングのときに「梁山泊イベントを発生させている」「物語に登場する梁山泊の好漢108人全員を集めている」とエンディングが変わるという裏技があるようです。
通常のエンディングでは天コウ星の36人の名前がでるのですが、条件を満たすと地サツ星72人の名前も出るとか…
簡単そうに見えるのですが実は結構難しく、「108人が結構ばらけている」「高キュウを捕らえた時点でゲーム終了になるため、高キュウの居る国に108人を入れてはいけない(高キュウは自分では移動しないので、同じ国に入れてしまった場合は高キュウだけ戦闘で退却させるなど孤立させないといけない)」…まぁ、シナリオ4の梁山泊の宋江なら大半が居るのですが…
ただ、このエンディングは未だに見たことがありません。動画サイトに掲載されていないし…どんなエンディングが長いこと気になっていますが、はたして?
光栄のシミュレーションゲームで楽しんでいた頃の思い出の作品の1つですね。
只、信長の野望や三国志と違って続編が1作だけだったのは、知名度の差なのでしょうかね…それこそ「水滸無双」なんて作って欲しいくらいなのですが…
ゲームオーバーまでのリミットがあることや序盤の高キュウ軍の強さや開封府に攻め込むには勅命が必要など、当時にしては条件が厳しい部分もあり、苦労した記憶があります。
しかし、このゲームファミコンやMSX2にまで移植されるくらい当時は結構気合を入れて作られていた作品でもありました。
Windows時代にも何度かリメイクされていた様ですが…入手しておけばよかったかなぁ〜