2006年イタリア総選挙

 3月14日 ベルルスコーニ VS プローディ テレビ討論(第1回目) =随時改稿

  ついに、左右両雄によるテレビ討論が実現しました。この両首相候補は1996年の総選
 挙(プローディが勝利)とまったく同じ組み合わせで、実に10年ぶりの直接対決となります。
 今回は、討論のルール作りが難航し、当初13日の予定が14日になりましたが、イタリアで
 はおそらく初めてではないかと思いますが、アメリカ方式というか、制限時間表示が出て
 司会以外にジャーナリストが2人、それぞれ30秒以内に(しばしば答えより長い質問をす
 る記者もいるイタリアでは珍しい光景です)敵方?(そういう決め方ではないと言われます
 が人選で両陣営が協議しています)らしい候補に先に質問をぶつけ、両候補がそれぞれ
 2分半の持ち時間で答え、さらに反論や補足に1分ずつというものでした。事前のルール
 作りの厳しさが効き過ぎたか、司会のミムンはほとんどタイム・キーパーの役に徹し、他
 の番組とは違い、ほとんど発言しませんでした。両陣営の申し合わせで、ベルルスコーニ
 に質問するのは、トリーノ本拠の主要紙『スタンパ』の記者、プローディに質問するのは、
 ローマ本拠の歴史ある新聞『メッサッジェーロ』の記者でした。より発行部数が多く従来
 から左派支持の『レプッブリカ』や、伝統的には中道的で右派に近い寄稿者もいながら
 今回は左派支持を決めたミラーノの『コッリエーレ・デッラ・セーラ』は公平性の観点から
 避けられた形になりました。

 全体の印象
  ベルルスコーニは、序盤から制限時間をどんどん超過し、司会がその分プローディに
 時間を足したりして対応していました。あまりに多くベルルスコーニが違反するので、この
 人はやはり法律などを守らない人だ
という印象を与えたのでは、というコメントをテレビ
 の後続番組での解説者が言っていましたが、私も同感で、このコメントには笑いました。
 ベルルスコーニ自身がさまざまな係争事件を抱え、自分に都合のいい法律ばかりを作っ
 ているからです。
  もう一つの特徴は、ペンを片手に丸や線を描くような動作をしながら、数字を多数引用
 したころです。都合のいい数字ばかり出された感もありますが、ある意味で経営者っぽく
 精力的な印象も与えていました。しかし、カメラに目線を合わせず、落ち着きのない感じ
 が多かったです。
  それに対し、プローディは、時間はベルルスコーニよりは尊重し、たびたび制限時間内
 にキチンとした落ちをつけました
。この人は大学教授でもありますが、話は難しくならない
 ように、分かりやすい例を引いて説明していました。数字は濫発せず、むしろ大きな枠組
 みを示すことに重点を置いていました。
  落ち着いて聞いていられるのですが、これから首相になる人というよりも、現役の首相
 という感じで、その点では挑戦者としてピリピリせず、選挙キャッチフレーズの「セレニタ」
(見晴らし良好で落ち着いたさま)
と合っていたのですが、その分迫力不足の気味も少しあ
 りました。

 第1部(主として財政、移民問題について)
  最初に質問したのは、『メッサッジェーロ』の記者。ずばり税金について。減税という明
 確な数字がある右派に対し、左派が今一つ明快に答えられない分野です。右派側?の
 記者としては、いい質問だと思います。プローディは増税は否定したものの、どちらかと
 言えば責任ある政府による公平な負担を強調しました。ベルルスコーニは減税の成果
 を強調し、左派が導入した生産活動税(IRAP、州レベルでの一種の企業向け外形課税)
 の廃止を説明し、左派は年金を削減するだろうと警告しました。これに対しプローディは
 生産活動税は基礎医療の財源であったと説明し、年金削減も否定しました。ベルルス
 コーニはこの日、EUの司法委員会?が生産活動税の妥当性を否定したことを挙げて
 自らの政策の正当性を主張。ここから議論は脱線して、プローディは「フロントマン」であり、
 左派陣営に含まれる共産主義者たちの隠れ蓑になっていると述べました。
  次の質問は、『スタンパ』の記者がユーロについて。ベルルスコーニは、ユーロ導入後
 に生じた物価高はイタリア以外でも広く起こったし、物価は政府が管理できないと説明し
 ました。プローディは右派政権の責任を強調、同じオーストリア系なのに物価の安かった
 はずのイタリア領南チロルのボルツァーノがオーストリアのインスブルックより高くなって
 しまったたのは政府の無計画性のせいだと追及しました。
  第3問は、財政について。プローディは右派政権が財政難を軽減するために実施した
 財政恩赦(脱税者に滞納分の一部を納付させ免罪することで歳入増を図る臨時措置)を
 厳しく批判。ベルルスコーニは、ECOFIN(EU経済財務相・中央銀行総裁会議)がこの日、
 イタリアの財政計画を承認したことを紹介。むしろ左派政権からGDP1%相当の歳入欠
 陥
を引き継いだという従来の右派政権の主張を継続。その困難のなかで、右派政権は
 むしろ経済の停滞を防いだと弁明しました。
  第4問は、『スタンパ』の記者が明らかに右派政権に批判的な視点から移民問題が過
 度に危機感を煽る形で政治化されていると質問。ベルルスコーニは右派政権は移民の
 流入をよく管理していると主張しました。一方、プローディは、むしろ右派の政策により
 移民問題は悪化したとして、右派政権がこの問題を社会のほかの問題から切り離して
 いると批判、「将来のイタリア市民」の権利と義務という視点のなかで位置づけなければ
 ならない、となかなか格調高い言葉で第1部をうまく締めくくりました。


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(最終更新=2006.3.24 以下は以後に更新)

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