千手観音はずるくない 千手観音(奈良 唐招提寺).

日本最大にして、真相千本(実際は953本)の腕を持つ、国宝「千手観音立像」。
小脇手すべての掌に目が彫られています。この千の目で祈りにきた衆生の煩悩を浄化するのか…?

「見仏記」のなかで、みうらじゅんは「千手観音はズルイ観音だと思う。千手ときたらまるでオロナイン軟膏のように何にでも効く…」なんてことが書いてありました。
たしかにそうです。千手観音は千本の腕を使ってあらゆる悩みから解放させてくれる、そして願いを叶えてくれる、ありがたい観音様だと思っています。
つまり「現世利益」の代表選手…

しかし「現世利益」を求め過ぎること自体、煩悩ではないのか…?
我が子のが学力アップしますように、お金が儲かりますように、商売が繁盛しますように、いい会社に入れますように…そんな「自分の努力」で叶えられそうな願いを叶えてくれるのが慈悲なのか?信仰なのか?そのための千手観音なのか…?
そいいう思いが少なからずありました。
この観音様に出会うまでは…

去年の夏に唐招提寺に久々にこの観音様に会いに行きました。
その時は「金堂」の解体修理に合わせて、この千手観音立像も修理中で脇手がすべて外されてスッキリしたお姿を至近距離から見ることができました。
しかし外された脇手の掌から覗く「目」や本体の額にある「第三の目」からは凄い威圧感が発せられ、「お前の心の奥底まで見ているんだぞ」という無言のメッセージが心の中で響くのでありました。
解体修理する前に「魂を抜く」法要はされているにも関わらず、千年以上もの長き時空の間、多くの人々の「念」を受けてきたためなのか、凄い威圧感。

ここで私は千手観音の「本当の意味」を、私なりにほんの少しだけ理解できたのでした。

千手観音。正式には「千手千眼観世音菩薩」。掌にそれぞれ「一眼」あり、その千の目をもってすべてを見通し、救いの手を差しのべるという。

そうか、そういうことか…

この観音を造り上げた仏師のひたむきな思い。
正式な解釈じゃないかもしれませんが、もし私たちが多くの願い、煩悩を持ってこの観音の前に立ちはだかっても、この観音様は「千の目」をもってすべてを見透かす。私たちもこの巨大な千の目を持つ観音様に圧倒され、次に感動を受け、自分たちの欲深い願いが煩悩であると思い知らされる。
そして煩悩から解放される…

この観音様の慈悲とは、煩悩を浄化させてくれることなのか…

これが本当の「現世利益」ではないのだろうか…

2010年(予定)に唐招提寺の金堂の解体修理が終わり、この「千手観音立像」をはじめ、「薬師如来立像」など多くの巨大仏像がまた金堂に帰ってきます。そのときには再び金堂に行ってみたい。
そして千本揃った千手観音の前に立って、改めてこの観音様から煩悩の浄化という、「現世利益」を感じてみたい…


威圧感のある眼差し。
すべてを見透かしてしまう凄いお方です。
この目の前では、もう嘘など付けません。

■ BACK

■ HOME
※ここに掲載する写真はパンフレットや雑誌等からスキャンしたものです。まずかったら訴えずにまずご一報を。                                



■ HOME