観音様御懐妊  十一面観音立像 (奈良 室生寺 金堂) .

側面から見ると、確かにお腹の辺りがふっくらとしています。そして胎児が宿るお腹の位置に「輪宝」が…

あどけない目・鮮やかな朱色の唇。
「女人高野」を最もよく表現した像だと思う。

「女人高野」として、古くから女性達の「逃れようも無い悩み」を受け入れてきた室生寺。
その室生寺の金堂に立つ国宝「十一面観音立像」。

当時(平安期)の十一面観音の像としては全く異質の作風です。仏像の専門書では、
「あどけない無垢の少女のような表情で…」
「女性の初々しい姿を表したかのような…」
なんて書き方をしているのですが、私にはそんな「初々しさ」よりも何か近寄りがたい「秘めたもの」抱え込んだお顔のように見えます。うまく表現できませんが、細く重たそうな瞼(白目と黒目がくっきりしている為それが余計に強調されている感じ)、朱色の唇、ふっくらした頬、全体的にぽっちゃりしたかのような体型…。
そして生々しいほどに「写実性」な造形に、そこに本当に「一人の女性が動かずに立っている」、そう感じずにはいられません。ある意味「仏像」というよりも、「女性像」と言ったほうが私にはしっくりきます…

唐(中国)の天台山から伝えられた修法の一つ、「放光(ほうこう)菩薩法」では地蔵菩薩と妊婦の姿を写実的に表現した菩薩像の二体を並べて、授産や安産・無病息災を祈るという。丁度この金堂では、本尊の「釈迦如来立像」を挟んで同じ位置に「地蔵菩薩立像」とこの「十一面観音像立像」が配置されている。
ふっくらとしたお腹周りと、お顔の造形を見ていると、一部で言われているように、やはりこの観音様は「懐妊」しているのだろうか…
丁度胎児の宿る子宮あたりの高さに標的のようにぶらさげられた「輪宝」がそれを物語っている…

徳川五代将軍の綱吉に実子が生まれず、男子誕生がないのに焦る綱吉のために、生母である桂昌院(けいしょういん)が護持僧であった隆光(りゅうこう)上人の勧めで、室生寺の復興に勤めたのはあまりにも有名な話。
「女人高野」と呼んだのも桂昌院がはじまりと言われています…

1000年以上の長きにわたって、女性たちの授産や安産を含め、人に言えないような多くの悩みを受け止めてきたこの十一面観音。その女性達の深い「念」が込められているからこそ、男性の私には、近寄りがたい「秘めたもの」を抱え込んだように映ったのかもしれません…


実はまだ室生寺には行ったことはなく、実際にこの十一面観音には逢ったことがありませんが、いつかはお会いしたいと思っています。その時はこの観音さまは私を受け入れてくれるだろうか…写真で見るように、私を近づけまいとして「念」を発してしまうのだろうか…?

「女人高野」と呼ばれる室生寺を最もよく表した像だと思うこの観音様。
いつかは逢いたい仏像がまた一つ増えました。

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