「耐える美学」か?‥ 十一面観音(滋賀 向源寺).

私はこの観音さまを見るたびに、十体の顔の重みに「耐えている」
そう見えてなりません‥

あまりにも有名な「彼岸寺の観音さん」こと、国宝十一面観音立像です。
十一の顔のバランスを保った十一面観音の最高傑作といわれ、「仏像100選」なんてアンケートをとったら必ずベスト5に入りそうな、美しい仏像です。

十一面観音としてはかなり古様で、大きな鼓型の耳飾りから西域や東南アジアなど異国の風を感じずにはいられません。
そして気品、逞しさ、繊細さ、リズミカル、伸びやかさ等、あらゆる異なったベクトル(要素)を集約したこの像の前では誰もが心打たれて立ち尽くすことでしょう。

私もそう感じずにはいられないのですが、この観音様を見ていると何故か「何かにジッと耐えている」そう思えてきたのでした。

何に耐えているのか?
それはこの観音様の上に圧し掛かる「十体の顔」。
十一面観音としては、バランス的に大きめな「十体の顔」が重みとして圧し掛かっているように見えてなりません。


一般的には十一面観音とは、頭上にある色々な面相で、私達を怒ってくれたり、諭してくれたり、なだめてくれたりしてくれると言われています。
しかし私はこの観音様に関してはそうではなく、頭上にある面相はすべて私達(つまり人間)そのものであると思うようになってきました。
あざ笑ったり、怒ったり時には牙をむいたりするどうしようもない私達(人間)。そういった性(さが)を全て観音様が引き受けてくれて、つまり「頭上の重み」として受け取って救ってくれる。


少し「前のめり」気味で、一歩右足を踏み出した形は、まさに衆生を救済せんとする姿をあらわしているといわれますが、私には「一緒に歩こう」と言っているようで‥

「私について来なさい」
私達の性(さが)を重みとして受け取ってくれる。そしてこの観音様の後をついて行くと後ろ姿に見えるのがあの有名な、そして普段は見ることのできない「暴悪(ぼうあく)大笑面」。
救いを求めて後をついてきてくれる人に笑顔で答えてくれる‥

この観音様の居られるのが「湖北地方」。
冬は雪深くなるこの地方で、この地の十一面観音の多くは、人々の厚い信仰で古くから守られてきたのでした。
人々の願いを重みとして受け取り、寒さにもジッと耐えてきた観音様。
湖北の人々に守られながら、そして人々を救ってきた観音様。


そう思うと、もうこの観音様の前では嘘なんてつけません。

「私の後をついて来なさい」と観音様が言うと、

即座に(「暴悪大笑面」見たさもあって)「あなたについて行きます」

そう答えるでしょう‥

ご存知「暴悪大笑面」。
私達の欲深さを笑い飛ばしているかのよう‥

右足を一歩踏み出して、今にも歩き出しそうで‥

十一面観音の最高傑作と言えます。

※ここに掲載する写真はパンフレットや雑誌等からスキャンしたものです。まずかったら訴えずにまずご一報を。                                

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