2005年05月2日 第4回見仏ツアー テーマは「癒し」 (法隆寺・中宮寺〜東大寺)

今回の見仏ツアーに当たって私はコースを2つ設定し、2名の各隊員にアンケートをとってコースを決めることにしました。

コース@、テーマは「癒し」。法隆寺・中宮寺で白鳳仏のアルカイックスマイルに癒され、最後は見仏クラブお決まりの東大寺法華堂の畳の上で天平諸仏と向き合って、癒しのパワーそして明日への活力をもらうといういかにも「疲れたおじさん」的発想。

コースA、テーマは「圧倒」。京都の東寺で空海が築いた立体曼荼羅(すさまじき五大明王など)、そして三十三間堂の千体の千手観音、そして風神雷神像などに圧倒されまくるツアー。

この2つを提示して各隊員にメールで送ったのですが最近疲れ気味のN隊員からは早々に「癒しを希望します」と弱々しい返信がありました。
もう一人のT隊員からはツアー当日まで全く返信が無く、当日にいつもの集合場所(私の車の駐車場)で「行き先はどっちになったの?」と聞いてくる始末。なんでもT隊員のパソコンのADSLモデムがぶっ壊れてプロバイダと繋がらない状況が続いていたらしくて、私にメールが送れなかったと言うことでしたが今回は疲れ気味のN隊員の意見を尊重してコース@の「癒し」に決定。

コースは「癒し」に決定

法隆寺で癒されたか?

まず法隆寺に到着。中門で日本最古の金剛力士像を見る。実に私は十数年ぶりの法隆寺であり、もっと時間をかけて見たかったのですが隊員たちに早く癒される仏像を見せたくて金堂に向かって伽藍内に入っていきました。
修学旅行の生徒たちがたくさんいて、大阪商人的にいうと「中々繁盛しています」感じ。まずは国宝の金堂に入りました。薬師如来坐像や阿弥陀坐像も良かったがやはり金堂内は本尊の金銅釈迦三尊像がずば抜けて素晴らしかった。
なぜ素晴らしいのか、どこが素晴らしいのか良く表現できないがとにかく惹きつけられるのです。
写実的に言えば顔は長いし、両脇侍の「薬王菩薩」「薬上菩薩」など5頭身くらいと思われるほどお顔がデカイ。しかし「古拙の微笑み」と言われるやさしい口元でなぜか癒されます。
色々各隊員に仏像の説明をしますが2人はただそれに聞き入っているだけで無表情なのが気になります。
次に十数年前にはまだ無かった大宝蔵院、ここには「百済観音」がいますがT隊員は「なるほど、凄い」と連発してくれていたのですが、やはりN隊員は「ふーん」と言うだけであまり癒されている感じではありませんでした。
大宝蔵院を出た後N隊員に聞いて見ると、私もノーマークだった天平時代作の「地蔵菩薩」に惹かれたみたい。子供がこの「地蔵菩薩」の前で遊んでいて、お父さんが「コラ、静かにしろ」と言っていたのをこの「地蔵菩薩」が優しく微笑んで見守っているように思えた、と言っていました。お地蔵さんは元々子供好きなのでN隊員にはそう思えたのでしょう。
そうか、私はハットしました。なにも有名どころの仏像ばかり紹介しても人それぞれに解釈、受け方は違うのだから、押し付けるように紹介しても癒しにもならないということに気が付きました(我ながら恥ずかしい)。
次に夢殿に入ります。秘仏扱いで前回来たときは公開されてなかった「救世観音」ですので、今回は私は初めての対面でなぜか「フェロノサ」気分でドキドキしながら対面しました。「暗いっ」と言うのが第一印象。とにかく暗くてよくお顔が拝めません。丁度暗さに慣れたところで修学旅行生の集団が入ってきて移動を余儀なくされました。残念。わずか数十秒の対面でしたがこれこそ秘仏扱いにせずに保存状態の絶対良い大宝蔵院に展示してくれたらいいのになと思いました。

中門左側の金剛力士。右手の手つきがいつも気になります。

金堂を支える邪鬼。重たそうガンバレ。

金堂と五重塔。

中宮寺では癒されたか?

次に中宮寺に向かいます。法隆寺のすぐ隣にあるためそのまま歩いて移動します。
中宮寺は尼寺であり、とても落ち着けるところでした。特に入り口にある藤の花が綺麗で、いかにも尼寺って感じでした。まず入り口で拝観料を納めると同時に朱印帳を渡します。
さあいよいよ本堂で「菩薩半跏像」またの名を「如意輪観音」との対面です。
本堂奥中央に一人座っておられるこの像を久しぶりに見た瞬間、「グッ」ときました。
ぱっと見て「仏像がある」と言うより「黒い人が座っている」と言う感じ。
正面から見るとなぜか男性ぽく見えて、斜め横から見ると女性ぽく見えてきます。
そして見ているうちに色んな考えがぶっ飛んで、だんだんお顔から目が離せなくなりました。
興福寺の阿修羅との対面時もいつもこの感覚から逃れられなくなります。なぜか解りません。仏像が私に何か訴えたいのか、それとも私自身が意識しないけど仏像に対して何かを求めているのか解らないけど、意識が何処かに行ってしまって、自分の周りには誰も居なくなり、仏像と私だけの世界に入ってしまったとさえ思うくらい、何もかも忘れてしまいます。
そうしていると急に本堂入り口に座っていた案内役のおばさんが話しかけてきました。
気になっていたのですが、菩薩半跏像の前に仏像が展示してあって、何でも紙で出来た重文の「文殊菩薩立像」だそうな。中から経典が見つかって、どっかの博物館からこの中宮寺に里帰りして特別展示しているそうです。
せっかく「菩薩半跏像」と真剣に向き合っていたがこのおばさんの優しそうで上品な口調(さすが尼寺)に乗せられて、ついついその説明に聞き入ってしまい、お目当ての「菩薩半跏像」のことをすっかり忘れて、おばさんにもらったパンフレットとこの紙製「文殊菩薩立像」を真剣に眺めている我々でした。
中宮寺を出るとき朱印帳を受け取りましたが、中央に「如意輪観音」の文字、そして朱印は亀にかたどってありました。そういえば本堂の前の池には亀がたくさんいて、のんびり日向ぼっこしていたっけ‥。ちょっと癒される中宮寺でした‥。
N隊員に聞くと仏像めぐりのペースが早くて、じっくり癒しの時間が欲しいとのこと。
ゴメン、確かに限られた時間の中であっちこっち回るのは無理があるようで、「癒し」どころでは無いのは解ります、次回の見仏ツアーからはもっとゆったりと時間をかけて鑑賞できるように考えることにします。
よーし、次はちょっと距離があるけど見仏クラブお決まりの東大寺法華堂です。そこで充分時間をとって癒されようではないか‥。

中宮寺は藤が綺麗でした。ちょっと癒されます。

法華堂にて朱印を餌にヒーローになる?

最終目的地の東大寺に到着。GW期間中ということでしたが、とりあえず5月2日は平日ということで道路もそれほど混まず法隆寺から30分ほどで着きました。
今回も法華堂のみということですがちょっと小腹が減ってきたので、やはり見仏クラブお決まりの二月堂横の茶屋で「ワラビ餅・抹茶セット」650円を注文。いつものように注文してから待たされますが美味しいのでいつも立ち寄っています。
ちょっとだけお腹が満たされて、二月堂に登って奈良の町並みを見てリフレッシュしたところでところでいよいよ法華堂に参ります。
まず法華堂入り口で朱印をもらおうとした時、先ほどの法隆寺で朱印をもらうとき修学旅行の小学生たちが朱印帳を見て「かっこいい、俺も欲しい」「しゅいん?何それ」「きれい、俺も後で書いてもらおう」など注目を浴びたので、イイ気になって入り口に集まっていた小学生たちにわざと聞こえるように、カッコつけて「朱印‥‥ください」と高倉健風な言い方で受付のおじさん朱印帳を渡すと、周りに集まって着て法隆寺の時と同じように「わあ、カッコいい」と注目を浴びてイイ気になるのでありました。(私のほうが子供か?)
それを後で隊員のT君に話すと「フッ」と鼻で笑われました。(恥ずかしい)

法華堂への階段。さあもうすぐ逢える。

「法華堂は癒されるね」の一言で逆に私が癒されました。

さあいよいよ法華堂の中に入りました。
朱印をもらっている間に2名の隊員は先に入っていて、いつも座る畳の中央、つまり本尊の「不空羂索観音」(ふくうけんさくかんのん:なんとカッコいい名前なんでしょう)真向かいに座っており、ジッと本尊と向きあっていました。
特にN隊員はこの法華堂がお気に入りで、ここに来るたびに「何かパワーを貰えるのよ」と言っており、癒しを求める彼自身楽しみにしているようで、見ていると眼を閉じて何か本尊とテレパシーで交信しているみたい。他人が見ると不思議な情景に写ったかもしれません。
確かに「不空羂索観音」はあらゆる世界(不空)の、悩める衆生たちを羂索にてひとまとめに救ってくれると言う、最高の法力を持つ観音様なので、N隊員に救いの手(癒しのパワー)を送っていたのかも知れません。
その間私はT隊員に各仏像のレクチャーをしながら過ごしたわけですが、あとで時計を見ると1時間近くもこの法華堂の中に居たことに気が付く。
やはり法華堂に居ると時間の感覚が無くなり、時計を見る気にもさせないほどゆっくり時が流れている空間なのだなと、思えて仕方ありません。
しかし奥にたたずんでいる「吉祥天」と「弁財天」はいつ修復されるのでしょうか?「滅びの美学」や「わびさび」と言われているのかもしれませんが、あまりにも可哀想ではないでしょうか?かつての天平美女も、前列に並んだ強烈な個性の仏像たちの影でひっそりと時間の流れに身を任せていると言った感じがしてなりません。

法華堂を出て、少しは癒されたかをN隊員に聞くと「やはり法華堂は何度来ても癒されるね、感謝」とうれしそうに言ってくれて、T隊員も満足そうで結果的に逆にホッとした私が癒された形になった今回の見仏ツアーでした。

よーし、次の第5回ツアーこそ京都で「圧倒」ダーっと、宣言したのですが今回の反省を元に次回からはもっとゆっくり時間をかけて、仏像鑑賞を出来るようにと考えさせられるツアーでもありました。


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二月堂からの景色。よく晴れていて大仏殿の鴟尾(しび)も輝いていました。




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