06年6月7日 第7回見仏ツアー 行かねばなるまい「西ノ京」
  
(奈良 唐招提寺 薬師寺 東大寺)

鑑真さまに会いたくて‥

今回のツアーも奈良です。
ネットお仲間の情報で、唐招提寺の「鑑真大和上御影堂」が現在公開中であり、しかも金堂の「平成大修理」中にあわせて修復中の「盧舎那仏坐像」・「千手観音立像」も仏像修理所で公開されているそうな‥
以前、唐招提寺には一度だけ足を運んだことがありましたが、あの肖像彫刻の最高傑作といわれる、「鑑真和上像」はまだお会いしたことが無く、しかも修復中の仏像を見るという機会はめったにありません。2010年の金堂修理が終わってから唐招提寺は行こうと思っていましたが、もう待てません。
そして薬師寺。現在「玄奘三蔵院伽藍」が公開中。つまり平山郁夫画伯が描いたあの「大唐西域壁画」も二年ぶりに見れるということでテーマは、「行かねばなるまい西ノ京」に決定。
今回も私の運転する車はひたすら東へ進むのでありました。


龍か?象か?

唐招提寺には9時半ごろに到着。早速突入いたします。
南大門をくぐって、正面に立ち塞がる修理中の巨大な金堂(といっても金堂を覆っている建物のことですが)、さすがにデカイ。
そして金堂までの参道に沿ってに立てて並べてあるポール。その先端には、龍か象か分からない鼻の長い動物の装飾が取り付けてあって、その動物の口からロープが垂れ下がっている。「アレは象かな?龍かな?」「鼻が長いのでパオーンのほうでしょう」「国旗掲揚に使うんじゃないの?」「あとで正体をお坊さんに聞いてみよう」になんて会話をしながら修理中の金堂に入ります。
金堂内では修理の状況や、公開中の「鑑真大和上御影堂」のビデオを放映しておりましたが「やっぱりナマで見ないと駄目でしょう」と足を「仏像修理所」に急がせる3人でした。


脇手が無くてスッキリした千手さま

学校の体育館ほどの大きさの「仏像修理所」に入ってまず目に入る(いやでも入る)巨大な「千手観音立像」。像高は5mを超える巨像ですが、千本近い「小脇手」をはずされてスッキリしたお姿には、かつて見た時に感じた威圧感はそれほど感じられないなぁと最初は思いましたが、額にある「第三の目」、そしてケース内に置かれた「外された小脇手」の手のひらに描かれた目から「お前の心の奥底まで見ているんだぞ」という熱い視線が感じられるところが凄い。
次に「盧舎那仏坐像」。千手様と同様に、台座や光背が外されてスッキリしていますが、像高は3m以上あり、しかも今回は至近距離、1mくらいの距離に近寄っての拝観なので迫力ありました。切れ長の目にも魅せられました。
でもこの盧舎那仏さまも千手さまと同じく、光背を外されている。盧舎那仏さまは、光背にある「千の化仏」がら悩めるものに合う仏様を選んで、右手の指で弾いてこちらに飛ばしてくれる仏様なので、光背が無い間は人々を救えなくなるのではと、ちょっと不安になりました‥
でもこの二体の仏像は、金堂内に居られた時は柵のところまでしか近寄ることが出来ませんでしたが、修理中の公開ということで、ホントに至近距離から見ることが出来て、見に来れて本当によかった。両仏像のX線写真も興味深かったです。
金堂の修理が終わって(2010年)、今は離散した仏像たちが金堂に帰ってきたらまた訪れてみたいと思いながら、次の目的地、「鑑真大和上御影堂」に向かいます。


これぞ癒し 「御影堂」

「鑑真大和上御影堂」に到着。大広間に入るとまず目に入る襖絵の「青の世界」。
御影堂の襖絵や壁絵は、東山魁夷画伯の作で、鑑真さんの故郷、つまり中国の原風景を描いたもの。
大広間の襖絵は、波が打ち寄せる海岸が描かれています。海の青さが美しい。その襖絵の間にある厨子の中でジッと座っておられる「鑑真和上像」。初めて見たのですが、「像」というより「人」、つまり我々の目の前に今、鑑真さんが座っているかのようなリアルさ。
私は心の中で、「何度も渡航に失敗して、目も見えなくなりながらも、やっと日本にやって来られた。大変だったでしょう‥」と言葉を投げかけましたが、鑑真さんは勿論何も応えてくれません、ただジッと静かに佇んでいます。よく見ると「聞き耳を立てている」ように見えてきました。まるで自分の故郷、中国の海岸に打ち寄せる波の音を懐かしく感じているかのよう‥
ここでなぜか目頭が熱くなりました。なぜだろう?鑑真さんの労を偲んだためか、襖絵の美しさに感動したのか、よく分かりませんが‥
大広間には私達以外に10人くらいの人たちが座っているのですが、みんな思い思いのスタイルで、静かに佇んでいます。私と同じように鑑真さんと「会話」している人、大広間から外の白砂を敷き詰めた美しい中庭を眺めている人、襖絵を堪能している人、などなど。聞こえてくるのは鳥の囀りや、遠くからの金堂修理の工事の音くらい。時間を忘れる素敵な空間でした。

これぞ癒し‥

そしてふと中庭に目をやると、金堂手前で見た、ポール。同じように先端には龍か象か分からない動物が‥大広間内にいたガイドのおじさんに聞いてみました。
「よく皆さん聞いてくるんですよ、鼻が長いですがあれは竜です。竜頭(りゅうとう)と言います」へーっ、竜か‥
「お寺で何か行事や法要がある場合は、竜頭に幟(のぼり)をぶら下げるのです、この御影堂の出入り口で見ませんでしたか?」と。
御影堂を出ると確かに幟を掲げている「竜頭」がありました。青空に映える金色の竜頭に風になびく幟‥いい感じです。
その後、「新宝蔵」に入ります。ここには多くの「破損仏」達が展示されています。有名な首と腕の無い如来形立像、いわゆる「唐招提寺のトルソー」も見ましたが流れる衣文が美しいのですがあまりグッときません。やはりお顔や腕が揃った完璧な形で見てみたい。「滅びの美」なんて言われていますが、やはり可哀相と正直思いました‥


薬師寺まで歩いた歩いた

鑑真さんに後ろ髪を引かれるように唐招提寺を後にして薬師寺に向かいます。駐車場に停めている車に戻ろうとしましたが、薬師寺まではそんなに離れていないのでそのまま歩るいて行くことにしました。
薬師寺への道は住宅街を突っ切っていく一本道。道幅は狭いのですが、いかにも「観光地」っぽく無いのが西ノ京地区の良いところです。
汗だくになって薬師寺に到着。
前回(2月)に来た時は、伽藍内のあちこちに工事用のフェンスが張り巡らせてあったのですが、今回はそれが無くスッキリした印象。青空に映える東塔が美しい。
早速に金堂で薬師三尊に拝んでから講堂、そして2年ぶりの「玄奘三蔵院伽藍」で「大唐西域壁画」を見ることにします。


圧倒されるシルクロードの壁画、そして感動

「大唐西域壁画殿」内にある広大な壁画。平山郁夫画伯が30年のもの歳月をかけて描いた13の壁画群に圧倒されます。
シルクロードを題材にした壁画で、当時薬師寺の菅長であった高田好胤さんと口約束で壁画を描き始めた平山郁夫画伯。画材は全て自費で描いており、報酬は一切貰っていないとのこと。
壁画はシルクロードの題材に7つの場面、13の壁画から構成されており、「明けゆく長安大雁塔」から始まり、中央には「雪を頂く須彌山」、天井には広大な星空、そして最後は「ナーランダの月」で終焉を迎える。この最後の「ナーランダの月」には、この壁画群で唯一の人物の後姿が小さく描かれています。
この人物こそが高田好胤さんなのです。壁画群の完成を見ることなく、この世を去った依頼主の高田好胤さんを偲んで平山画伯が最後に高田好胤さんを描いて筆を置く、つまり完成させる。その時刻は2,000年12月31日午後11時59分、20世紀の最後に故高田好胤さんを描いてこの壁画群を完成されたという感動の物語です。
私はこの話を熱く(うるさく)、他の隊員たちに語っていましたが彼らは「あっ、そう」なんてあまり感動していない様子。しかしすぐそばでその話を聞いていた、知らないオバアサンが「ウンウン」と頷きながら聞いていたのが印象的でした‥
唐招提寺の御影堂の襖絵の静かな佇まいに対して、広大で雄大な壁画。
私の奈良の癒しポイントがまた一つ増えました。


変わりゆく西ノ京

ここで薬師寺を出て、東大寺に向かおうとした時、突然 T 隊員が「あの景色を見たい」といいだしました。「あの景色」とは彼のお気に入りのポイントである、「桜の木のトンネル」を抜けてから広がる、西ノ京の田園風景なのです。
一旦薬師寺を南門からを出て「木のトンネル」に向かいます。
しかし最初に行った2年前と比べて少しずつ風景も変わってきていました。舗装道路が延び、田んぼが埋め立てられて分譲住宅が建ちはじめていました。
トンネルを抜けて周りの景色を見ていると、あちこちで田植えが始まっていたのですが、機械を使わず手で苗を植えていたのを見て、まだ西ノ京には「昔ながら」が残っていると感じてホットする私達。
さあ、また薬師寺を通って(再入場させてもらいました)、唐招提寺まで歩いて、東大寺に向かいます(結構歩いたのでコタエマシタ)。


学生ばかりの東大寺

東大寺に着いて、修学旅行の学生の多さに驚く。
前回2月に行った時は、シーズンオフで人影もまばらでのんびり歩けたのですが、今回は全く逆。南大門あたりで固まっている人ごみや餌を目当てに集まった鹿たちをやり過ごすのに一苦労。はやく法華堂に着いて「癒しタイム」を満喫したいために足は速くなります。
大仏殿前を過ぎ、法華堂に向かう階段を上る頃にはもう人影もまばらになり、ホット一息。でも歩き疲れていつもの道のりが倍に感じられます。
学生達は二月堂に向かっており、法華堂近辺には殆どおりません。今のうちにと早々に法華堂に突入。
やはり我々3人以外、誰もいませんでした。早速たたみの上に寝そべったり(T隊員)、あぐらを組んで瞑想、本尊の「不空羂索観音」と向き合ったり(N隊員)、アッチコッチに移動して各仏像を堪能したり(私)、それぞれのいつものスタイルで癒しタイムを満喫。
しばらくしてセレブな親子が登場。60歳くらいのオバサンと、30歳くらいの娘らしい女性の二人連れ。法華堂の入り口にいた受付のおじさんを引き連れています。おじさんは懐中電灯を片手に本尊の「不空羂索観音」の解説。
不空さんの宝冠にある12個のヒスイで出来た勾玉、12種の守り本尊を表しているそうで、これを模したヒスイのお守りを東大寺で販売中とのこと。
「わあ、全部買って買って」(娘)
「仕方ないわね〜」(オバサン)
と言い残して、おじさんを引き連れて出て行きました。まさにVIP待遇。
「ケッ」と心の中で叫んで、二人を目で追う私と T 隊員。 N 隊員は相変わらず目を閉じて瞑想にふけっております。
しばらくして、突然外が騒がしくなりました。学生達が騒いでいるみたい。
「来るぞ、来るぞ」と私と T 隊員がオロオロしているうちに、ドドーッと中学生の大群が堂内になだれ込んで来ました。静かな堂内が一気に学校の体育館の集会のような騒がしさに激変。先導の先生もいましたが、全然注意もしない。
私と T 隊員は畳から立ち上がって、オロオロ。周りを見ると N 隊員の姿がありません。いつの間に出たのか分かりませんが我々も出ようとしても、学生達がドンドン入ってくるので、「ゴメン、ゴメン」と言いながら学生達を掻き分けて出て行きました‥
N 隊員は入り口の下駄箱のところで私達を待っていました。さっきまで瞑想にふけっていた N 隊員がいつの間に引田天候のような脱出劇をやってのけたか分かりませんが、3人揃ってちょっと疲れ気味で法華堂を後にしました。



最後の最後で癒しタイムを満喫出来なかったのですが、唐招提寺の御影堂と薬師寺の大唐西域壁画を堪能できたので、それだけで充分お釣りが付く充実したツアーだったと、帰りの車の中で自負する私。
しかし疲れた‥今度こそは他の隊員の車で行かねばと、ブラックガムを噛み、睡魔と闘いながら車は走るのでした‥

修理中の金堂に向かうN隊員(左)とT隊員(右)。

龍かパオーン(象)かはっきりしてくれ‥

御影堂に入る時貰った絵葉書。
「鑑真和上像」と襖絵がセット。
イイですなあ〜。

竜頭の使い方。

唐招提寺の庭園を掃除するオバサン。こういう人たちのお蔭で美しさを保っているのです。ご苦労さん。

住宅街(生活道路)を通って、薬師寺に向かいます。観光地っぽくなくてイイ。

青空に似合う金堂と東塔。カッコいいです。

「木のトンネル」の手前には舗装道。分譲住宅も増えました、二年で変わったのね‥

南大門の下は学生で一杯。2月のツアーの時と大違い。

たいそうご立派な角を持った鹿に遭遇。思わず写真をポチリと‥

大仏殿前を過ぎると、人影が殆どなくなります。

■ 戻る



■ HOME