心の底まで見透かせる眼 広目天  (東大寺 戒壇院) .

恐ろしいまでの眼光、心の底まで見られているように思えます‥

右手に筆、左手に巻子(かんす)を持ち、眉を寄せ、眼を細めてにらみをすえる。

※ここに掲載する写真はパンフレットや雑誌等からスキャンしたものです。まずかったら訴えずにまずご一報を。                                

日本一男前の四天王、東大寺の北のはずれ戒壇院の中に居られる広目天です。

私が好きな写真家の入江泰吉。
彼が終戦直後、仏像を撮りはじめたきっかけがこの「広目天」であると、彼は写真集の中で語っていました。
最初は仏像と言うのは単なる彫刻だと思って、この広目天の撮影にとりかかったそうですが、ピントグラスにクローズアップされたこの広目天の眼光を見たとき、彼はあまりの鋭さに恐れをなし、「あの鋭い眼に心の底まで見透かされたような驚きを覚えた」と語っていました。それ以来彼は「近寄ろうとしても近寄れない仏像にひそむ力」とは何か考え続け、そして出した答えは奇をてらわずありのままの姿を、そして堂内に入った瞬間の礼拝したくなるような感動を忠実に再現することでした。

前置きは長くなりましたが、それくらいこの仏像には人の心の奥底まで見透かせる力が内部から湧き出ている、そう感じられるのです。

広目天、西方を守る四天王の一人、視野を広げ、正しい知恵を与え、仏法を聞けなかった人々を帰依させる力を持つ。元は自在天(シバ神)の化身で、面上に三目あったため、「広目」と名づけられたとも言う。
つまりそれくらいこの仏像には眼力があり、どんな相手でもこの眼差しの前では全てがさらけ出され、嘘をつくことさえ出来ない。そう感じられます。

私は戒壇院に何度か足を運んでこの広目天と対面するたびに思うのですが、一度この広目天と正面から見つめあいたいと思うのですが、壇内に上がることは出来ないため(昔は壇内に上がることが出来て、間近で見られたそうです)、壇の周りの1m幅も満たない狭い拝観通路から下の方から四天王たちを見上げることしか出来ません。
一度この広目店と正面きって見つめ合いたい(にらめっこ)。そのとき彼はどう言うだろうか?
心の底まで全てさらけ出されて、「おまえの心の中は嘘ばかりだな」とか言われるかもしれません‥

写真でこの広目天の鋭い眼差しを見ていると、最初は「恐い」と思いますが、しばらくジッと見ていると恐さがすこしづつ和らいで、なぜか純粋な気持ちになってきます。
これは広目天が私の心の中まで見通していてくれて、間違い、迷いなどをすべて解ってくれているんだなという気持ちになって行くためだと思います。
ですからなおさら一度本物と正面から見てみたいと思うのです‥
今では壇内の入り口にはセキュリティー(赤外線ビーム)があって、少しでも入ろうとすると警報がなるようですが、それでも入りたい!
そう思わせる広目天であります。

東大寺では大仏殿、二月堂あたりはいつも賑わっていますが、ここ戒壇院はなぜか拝観に来る人は少なくひっそりしております。それがまたいいところです。
拝観者の少ない静かなこの戒壇院でじっくりこの広目天を見つめていたい(正面からは無理だけど)。

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