準隊員F君登場

今回の見仏ツアーに初参加のF君、実は彼も私たち見仏クラブの3人と同じ高校の同級生。N隊員とT隊員は所用で時々会っていたようですが、私は実に20年ぶりの再会。久々に会うF君は「最近古建築に興味があって…」ということでお寺の建造物に興味あるみたい。今回は初参加の彼を入れ4人の賑やかツアーと相成りました。
今回のコースはまず薬師寺。古建築に興味があるF君の為にあの東塔を見せたくて組んだツアーです。次に私がまだ行ったことがない不退寺、そして東大寺。現在修復工事で拝観停止中の法華堂本尊の「不空羂索観音」が現在新しく完成した「東大寺ミュージアム」に「日光・月光菩薩」と併せて展示中と聞いているので会いに。そして締めは興福寺。私は何度も行っているのですが見仏クラブのメンバーは新しくなった国宝館はまだ行っていなかったのでコースに入れることに。ということで今回も私の車で姫路を朝7時過ぎに出発、高速道路を東に走ります。


「白鳳の匠の心意気を感じてくれい!」東塔にて

9時半過ぎに薬師寺の駐車場に到着。平日に関わらず紅葉&修学旅行生のツアーでバスが既に数台入っていました。車を停めて境内に向かいます。途中参道で血眼になっていつもドングリを探すN隊員は今回は大人しい。聞くと彼の家の庭には植えたドングリがかなり育っていて、庭を森にする計画は順調に進んでいるようです。だからあまり拾う必要がないとのことです。参道を歩いている途中、神社が並んでいる(休ヶ岡八幡宮・孫太郎稲荷神社)のを不思議がるF君に「昔はお寺を建立する時に、その土地に昔から居られる神様を祀ってからお寺を建てることが当たり前なんですよ」と説明する。そうしているうちに南門に到着。すると東塔の周りに建築用の足場を組みつけ中であることに気付く。そういえば平成の解体修理が始まることを思い出しました。白鳳伽藍に入ってF君をはじめメンバーに東塔の説明を行う。
私「東塔に使用されている檜は樹齢1,000年だそうです。東塔が建ったのは今から1,300年前なので、この塔に使用されている木は今から2,300年前、つまり弥生時代前期の檜になるわけです」という解説にメンバーが驚く。そして東塔の向かいにある西塔は、東塔の当初の姿を再現して再建した事も説明して薬師三尊の居られる金堂に入ります。
金堂内では薬師三尊を前に僧侶(今回は生駒 基建さん)の法話が始まろうとしています。薬師寺の法話は仏像と共に私の楽しみの一つ。笑いを織り込みながらの法話は、毎回ほぼ同じ内容ですが何度聞いても飽きることはありません。
F君に薬師三尊の説明を簡単にして(法話の中で三尊のことは殆ど説明され尽くしていたので)、講堂・東僧坊を経由して玄奘三蔵伽藍に向かいます。
玄奘三蔵伽藍ではF君に特に見せたかった平山郁夫の「大唐西域壁画」。玄奘三蔵が経典を求めて通った道程を、平山郁夫画伯が壁画殿の天井を含め部屋いっぱいに描いた広大な絵を説明。
白鳳伽藍に戻ってきた私たちは最後に国宝の東院堂に入ります。ここで国宝の「聖観音」の説明を行います。F君は「これ、いいなぁ〜」って溜息のように呟く。そして東院堂内に展示してある、三重塔の先端部の「水煙(すいえん)」のレプリカを指して造形美を説明します。
私「地上30m以上の高さ、つまり白鳳時代の人々が決して見ることが出来ない高さに、こんな素晴らしい造形美の水煙を掲げようとした当時の職人たちの心意気を感じてくれい!」と熱く説明。
帰りに駐車場で60歳位のオバさんに呼び止められる。
「あの〜私たち奈良に初めて来たんですけど、どこかお勧めのお寺ってあります?」聞くと屋久島からやってきた男女お友達5人組で、レンタカーで奈良周辺のお寺を回っているそうです。今日中に屋久島に帰るそうですが、時間的にもう一寺行けそうなので駐車場でばったり出会った私に訊いてきた次第。
私「今から私たちはここから10分位の不退寺というところに行く予定ですが…」
オバサン「フタイ寺?なんて書くの?」
私「不良の不に退出の退です。私たちは仏像がメインで、五大明王が凄いらしく、紅葉も綺麗みたいですよ」
オバサン「じゃあ、私たちも行こうかしら?ありがとね」
と言ってオバサンはお仲間が待っている車に駆けて行きます。おそらくナビで「不退寺」を探すのでしょうね。


外は女性的、中は男性的な寺、不退寺

薬師寺から車で10分程度で着きました。狭い駐車場には既に数台停まっていており、僧侶の方か交通整理をしていました。
山門をくくればそこは紅葉の世界が広がっている。右手にある小さい池には水面に映った紅葉の風景をシャッターに収めようとしているお年寄りのカメラマンたちが群がっていました。デジタル一眼を手にしたF君も境内のアッチコッチに移動して写真を撮りまくっている(最近写真撮影にはまっているいるそうです)。不退寺は天下の二枚目、在原業平(ありわらのなりひら)が創建に関わった花の寺として有名で、確かに私たち以外の拝観者たちは女性が圧倒的に多い(ってもお年寄りばかりですが…)
バシバシ写真を撮っているF君に「先に本堂に入っているね」と言って三人は本堂に入ります。入った瞬間、そこはもう「立体曼陀羅状態」。内陣中央に逗子に収められた「聖観音菩薩立像」。白い素肌に耳の横の大きなリボンが目立ちます。御顔立ちも女性的というより男性的。そして本尊を守るように左右に五大明王がドーンと配置されています。さすがに迫力があります。でも「降三世明王」の足元に居られるはずの「自在天」と妃の「ウーマ」さんが居られません。どこかに逃げてしまったのか(嘘)?遅れて入ってきたF君に私が五大明王の説明を行います。「元々は大日如来がオリジナル。そして不動さんから、この四人に変化(へんげ)していくのです。つまり大日如来が新幹線の0系とすると不動明王が100系、四人が500系…」という説明に苦笑するF君。後ろで他の拝観者たち(おばさん達)もクスクス笑っています。彩色もよく残っていて、五大明王の衣の文様をじっくり眺めるF君。そして大威徳明王の横に居られる高さ1m足らずの小さい「地蔵菩薩」がかなり前傾姿勢であることに驚く(角度は30°くらい傾いておられました)。前傾の意味、つまり衆生を救いに行こうとする「一歩踏み出す」気持ちを表すことを説明するとさっき笑っていたオバサンたちが「あ〜そうなの、それで前かがみになっていたのね」と声をかけてくれる。本堂を出ると先に出たいたN隊員とT隊員は本堂の縁側でのんびり日向ぼっこをしていました。
「さあそろそろ東大寺に向かいましょうか?」と山門に向かう途中、さっき薬師寺で会ったオバサンに再び出会う。
オバサン「不退寺良かったわ〜良いお寺を教えてくれてありがとう。あなたの説明も面白かったわ〜」(後ろで聞かれていたのか…お恥ずかしい)
しかし不退寺って境内の紅葉や庭のはんなりした女性的な雰囲気とは打って変わって、本堂内では凄まじい迫力で迫ってくる五大明王。まさに体育会系のロッカールームといった感じ…このギャップがイイ!


初見仏!東大寺の「青面金剛」!もう感動!

東大寺は平日に関わらず、予想以上に混雑していました。やはり修学旅行シーズンと紅葉が重なってか南大門前の参道は人と鹿でいっぱいでした。
南大門を潜って左手にある「東大寺ミュージアム」に早速入ります。
大仏殿との共通チケットを購入して突入します。国宝「誕生釈迦仏」や能面などをやりす過ごしていよいよ本尊の居られる大広間に。
ガラス越しに見る「不空羂索観音」。持物や光背、そして宝冠が無い状態で見るのは初めてで、ぱっと見た瞬間別の仏像かと思うほど印象が変わります。しかし巨大で見る者を圧倒する威圧感は健在です。法華堂で見ていた時よりも、一回り大きく見えるのは気のせいか?法華堂内ではいつも本尊の正面座り、目を閉じて本尊と「交信」をするN隊員は、今回は本尊の正面ではないけど長椅子に座って目を閉じ、交信を開始します。私はF君に、本尊の説明を開始します。するとその声が大きかったのか、腕章を付けた係のオバサンに「すいませんがもう少しお静かに」と注意を受ける。N隊員の横に座って暫く三尊を見る。日光月光のお二人も何か法華堂で見たときよりも優しい表情に見えるのも気のせいか?交信をやめ、今度は見仏スコープで本尊を舐めるように見ているN隊員に「法華堂で見る時よりも日光月光さん、嬉しそうに見えない?」って訊くと「やはりここの方が居心地が良いからなんでしょうね」と返事。私は「やはり法華堂よりもこっちの方が冷暖房完備で広々としているので嬉しいんでしょうね」って言いながら奥の展示室をちらりと見ると、何やら気になるものが…
破損した光背の様です。そうか!確か二月堂の完全超秘仏の「十一面観音」の破損した光背が展示されているって聞いていました!以前興福寺の「阿修羅像」について色々調べているときに、ある本で書かれていた「二月堂の十一面観音の破損した光背に、海の底で暴れている凶暴な阿修羅が線刻されており、その拓本が東大寺図書館に保管されている」という話。その光背が展示されているとは!早速光背の前に立ってF君に一緒に探してもらました。しかし光背の線刻なんて細くて見難いし、しかも二人とも「老眼世代」に突入してる為か中々見つかりません。
諦めたときにこの横に展示されている仏像に釘付けになりました。最初ちらっと視界に入っているときは明王系(大元帥明王か?)だろうと思っていましたがちょっと雰囲気が違う。立て札を見るとなんと「青面金剛(しょうめんこんごう)」!ではないか!!東大寺の何処に居られるのかも解らず(一説では東京の国立博物館で居られるという情報)画像も一度だけネットで見ただけのお方。それが私の真正面で「どうだ!俺に会いたかったのか!?」と立ちはだかっている。迫力に押されながらもまずじっくり見る。頭・首・胸・腹・手足と体中に蛇を巻きつけています。そして飛び出した目玉と牙をむき厳つい表情、渦巻の様な髪形に圧倒されます。青面金剛独特の「三猿(見ざる・言わざる・聞かざる)」を踏まず、岩座に立っています。以前からお会いしたかったお方の前で私は固まります。
「しょうめんこんごう、しょうめんこんごうだよ!ほらっ」って、さっき私を注意したオバサンが傍でパイプ椅子に座って青面金剛並みの「睨み」を利かせているのに関わらず、大きい声でT隊員の袖を引っ張る私。
「ん、なに?しょんべん小僧??」私が興奮して早口で言ったので聞き間違いした彼。
東大寺ミュージアム、最初は「不空羂索観音」と「日光・月光菩薩」がメインと思っていましたが、ところがどっこい見どころ・引き出しの多い素晴らしいミュージアムでした。「う〜ん、ここなら法華堂と同じくらい飽きないよ」とN隊員に呟きながら出ました。その時、ミュージアムショップでパンフレットを買うのを忘れた!「青面金剛」の詳しい解説や写真が載っていたら迷わず買うのに…もう一度入場券を買ってまで入ろうと一瞬思いましたが、後のスケジュールを考えて泣く泣く諦めることに…次回の奈良行きの時は絶対買います。


柱くぐりは「入場制限」

大仏殿に入ります。東大寺に来たらまず殆どの人が訪れるであろう大仏殿。中は拝者で賑わっています。小学生の修学旅行以来のF君はバシバシ写真を撮りまくっています(大仏殿内部は写真撮影OK)。T隊員と先に進んで「柱くぐり」の場所に来るとなにやら貼り紙が。「柱くぐり付近はたいへん混雑しますので記念写真の撮影はお一人一枚でお願いします」的なことが書かれています。柱くぐりの柱の周りにはベルトパーテーション(銀行やデパートなどの混雑する窓口によくあるベルトが出てくるポールのことね)が張られて人の流れを制限しています。何かの本で読んだけど、穴の開いた柱は大仏殿の北東の位置にあり、方角的に「鬼門」に当たるため、邪気を逃がすために穴が開けられているそうな。だったら邪気の通り道に人間が嬉しそうにくぐったりしたら邪気が憑依するかも…なんてちょっと心配そうに柱くぐりをを楽しんでいる人たちを見ていた私(余計なお世話ですね)。大仏殿内で迷子になったN隊員を探したり(いつのまにか先に進んでいて私が探しに行った)で予想以上に時間を食ったので最後の目的地、興福寺の国宝館に向かいます。


国宝館は修学旅行生で一杯でした

東大寺を出て興福寺の国宝館に向かいます。興福寺の境内に入ろうかという時に、修学旅行生の長蛇の列に遭遇。彼らも興福寺方面に向かっている途中です。「なんか嫌な予感がするね」とT隊員と話していた通り、彼らも国宝館に入っていきます。その列の長いこと…国宝館の入り口では引率の先生が生徒たち一人一人に入場券を渡している。私たち4人が入れずにいると、先生の一人が流れを一旦止めて私たちに「入りますか?」と訊く。しかし修学旅行生の列のど真ん中で拝観するわけにはいかないので「いいですよ、私たちは後で入りますので待っています」と丁寧に断る。しかし修学旅行生の流れが中々途切れません。後ろか来るわ来るわ、総勢200人くらいはいただろうか。「ここまで待たされるんだったら、生徒に紛れて関係者のふりして、先生に入場券を貰ってもいいんじゃないかい?」と言うセコイF君に「それはいかんじゃろう」反対する3人。ようやく最後の生徒が入場券を先生から貰って入るのを待って4人が続いて入ります。
さすがに混雑していた国宝館。有名どころの仏像の説明をF君にする私。特に彼は慶派のリアリティーで力の漲った仏像が気になったみたいで、私の説明をウンウンと頷きながら聞いていました。
そうしているうちに阿修羅さんのいる「八部衆」のコーナーに来ました。さすがにこのコーナーは拝観者の流れが鈍って渋滞しています。私は八人の一人一人の説明を行います。とくにメンバーたちが興味を持ったのが人身鳥頭の「迦楼羅(かるら)像」。「インドの伝説の怪鳥ガルーダがモデルです」という私の説明に「ああ、豪州のガルーダ航空の鳥ね」と答えるF君。そして阿修羅の前に立つ。やはり何度も言いますが、阿修羅の照明だけは特別で、背中の壁に映るシルエットや優しい表情に見えるように意図した照明は私は反対です。やはり中金堂に居られたときのように、下からや正面からの仄かな照明で、阿修羅の「魔性」を炙り出すような照明にしてほしいと思う…。


興福寺の混雑で予定よりも奈良を出るのが遅れて、チョイ渋滞に巻き込まれて帰りが遅くなりました。私も初参加のF君の為に張り切って説明しまくった為か、チョイ疲れの影響かT隊員がくれたブラックガムを噛みながら眠気と戦いながらの帰路となりました。
しかし今回のツアーは本当に充実していました。初参加のF君も別れるときに「また連れて行ってくれ」って言っていました。

不退寺の「五大明王」も良かったが、やはり東大寺の「青面金剛」のインパクトが私の中で絶大でした。
法華堂が暫く拝見停止になりましたが、それを補って余るくらいの「東大寺ミュージアム」。東大寺の「引き出し」の多さを再発見したツアーでもありました。

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大仏殿内の「柱くぐり」の注意書きと現場です。休日だったらもっと混んでいるんでしょうね。

不退寺の本堂(左)と紅葉(右)。門前にいた僧侶の方が「今週末が最後の見頃でしょうね」と言っていた通り、見事な紅葉でした。平日に関わらず、カメラ片手の拝観者たちがポイントポイントに陣取って紅葉の写真をバシバシ撮っていました。

さっきまで私たちに法話を聞かせてくれた生駒さんは、すぐに場所を変えて修学旅行生に法話をしていました。この時期はさすがに忙しいですね。

大仏殿はやはりこの角度から撮らないといけませんね〜

南大門前の参道。平日なのにこの混み具合です。

中門から見た金堂。

東塔には解体修理用の足場が組み立て中でした。

  2011年11月30日 第17回見仏ツアー 紅葉の奈良をゆく
   (奈良 薬師寺 不退寺 東大寺 興福寺)

不退寺の本堂の縁側。もう何人が腰かけたのだろうか?板が擦り切れて木目の節も浮き出ていました。




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