07年12月12日  第10回見仏ツアー 見仏クラブ原点の奈良  
(薬師寺・興福寺・東大寺)

我らの原点 薬師寺・東大寺

記念すべき第10回ツアー。
今回は我らの原点である奈良、いつものように通っている薬師寺と東大寺をゆっくり巡ろうという、「原点回帰」のツアー。(っても実際は、直前まで行先が決まらなかったので安易に決めたってことは未だに他の隊員には内緒です)
いつものように朝7時に3人の乗った車は姫路を出発、奈良方面に向けて東にひたすら走り続けます。
N隊員は今回チョイ風邪気味で、ニット帽にマスク姿。まるで絵にかいたような不審人物のいでたちで、「警察が見たら尾行されるぞ」って私とT隊員が指摘。
そんな彼が空のペットボトルを持参していたので「危険物でも入れる気か?」って更に突っ込む私。
なんでも前回(06年秋)の第8回ツアーで、奈良の秋篠寺で拾ったドングリのうち20個を去年彼の庭に蒔いたところ、今年になって6つの芽が出たそうな。今彼はカブトムシの幼虫を何10匹も飼っていて、庭にクヌギやブナの木をもっと生やして、落ち葉を腐葉土にして幼虫の餌にするそうな。その為に今回もドングリを拾うそうです。何時の間にカブトムシのブリーダーになったのか…?

私「やはり『奈良産』のドングリはよく育つのかな?」
N隊員「わからん。でも蒔いただけで6つも芽が出たのでイイのとちゃう?」
私「落ち葉が積もるくらい育てようとしたら何年かかるんやろか?」
N隊員「10年くらいはかかるでしょう」
私「気長なやな〜」
そんなくだらない会話を交わしながら、薬師寺に到着。

参道を歩いていると早速クヌギの木を発見。空のペットボトルを片手に落ちているドングリを物色するN隊員。
「ドングリに『帽子』が付いているヤツがあるやろ。それはまだ落ちて日が経っていないので、新しいということ。それを狙っているんや」
まさに不審人物…

T隊員は参道脇にある、彼のお気に入りの「木のトンネル」を渡って西の京の田園風景を、「2〜3年でアスファルトの道が出来たり、家が増えたりして変わってしまったな〜」ってチョイ寂しそうに眺めている…
それぞれ思い思いのスタイルで薬師寺を堪能しています。


日光・月光さんお引越し準備

参道の途中で気になるポスターを発見。
「初のふたり旅、春の東京。」なんと東京の国立博物館に来春、日光・月光菩薩のおふたりがお出ましになられるそうな。
T隊員「以前TVで観たけど日通には仏像専門の運送部隊があるそうやで」
私「聞いたことがある。なんでも『荷造り練習用』の仏像もあるそうやで」
なんて会話を交わしながら南大門をくぐると、金堂周りにはトラックが数台、ビニールシートが敷かれている。東塔・西塔もゆっくり見る間もなく、早々金堂に突入しました。
金堂内部は騒然としていました。薬師三尊の後ろには足場が設けられていて、「日通」のジャンパーを着た作業員がヘルメットを被って作業していました。三尊の台座にはカバーが既に被せられていて、着々とお二人のお引越しの準備が進められているようです。立札を見ると、それに伴って金堂内部を一部修繕するようで、とにかく騒がしい。薬師如来の台座に描かれている、インド風の蕃人(鬼人)たちも「なんだなんだ、騒がしいぞ」って騒いでいるように見えます。
「お薬師さん、長年傍にいたおふたりが旅立たれると、さぞやお寂しいでしょう」とお参りしました。

金堂、大講堂を過ぎて東僧坊にてお坊さんの説法を聞きます。
今回は松久保 伽秀(まつくぼかしゅう)さんの説法です。茨木県の高校から来た修学旅行生達を前におもしろ説法が始ります。私たちは後ろのほうに座って説法を聞きます。
銅が日本で発見されて間もない時代に、20t もの銅を使って造られた薬師三尊。恐らく大陸から船に運ばれてやってきた銅を使っていると考えられるのですが、そこまでしてこの像を完成させた当時の人々の信仰への熱い思いや、命の尊さを熱く、時にはユーモラスに語っていました。

東僧坊を出て、最後に東院堂で国宝「聖観音立像」を見る。装飾性の豊かな像で、左手から下に流れる衣を見ていると「本当に銅で出来ているのか?」と言ってしまうほど「まろやかさ、柔らかさ」が感じられる。すぐれた鋳造技術を目の当たりにすると「本当に白鳳時代か?」って疑いの目で見てしまいそう。小さいけど薬師三尊より手間暇かけて造られたとさえ思えてしまいます。

東僧坊を出て初めて東塔を見上げる。
青空に映える先端の「水煙」が美しい。肉眼では飛天は見えませんが1300年も昔、誰も見る事が出来ないような高い場所にも、素晴らしい工芸品である水煙を掲げた白鳳の匠たち。その技の凄さに圧倒された私たちでした。


阿修羅の視線の先には…

次に向かうは興福寺です。
目指すは国宝館のみ。私は10月に来たばかりですが、やはりまた阿修羅に逢いたい思いで今回行くことに決定。
車をお決まりの「高畑駐車場」に停めて奈良公園を歩いて興福寺を目指します。奈良公園内でもN隊員のドングリ拾いは続きます。そのため私とT隊員が先に歩いて、遅れをとったN隊員を待って三人が揃ったらまた歩き出すという形だったので中々時間がかかります。奈良産のドングリが本当に気に入っているのか?
国宝館に入る。前回私は阿修羅メインだったので、今回は他の隊員と他の仏像もゆっくり鑑賞しながら館内を回っていくことにしました。

「板彫十二神将」。ユーモラスな表情ですがジーっと見ていると奥行きがあって、「本当に板彫りか?」と錯覚してしまうほど凄い立体感。
「千手観音立像」5mを超える巨像です。太い眉に厚い唇でチョイ「ふくれっ面」で、安定感・重量感もあいまって、見る者を圧倒する。唐招提寺の千手観音とまた違った威圧感が確かにありました。
「山田寺仏頭」。久々にじっくり見ました。左耳の部分が大きく陥没しており、おそらく火災時に左耳から落ちたのではと思わせます。飛鳥の山田寺から月光日光菩薩とともに強奪されて、この地に迎え入れられる。そして室町時代、落雷による火災で火に包まれ首が熔落する。近代に入って現在の本尊の台座の下から発見されるまで忘れられた存在でした。ギュッと閉まった口元が今にも開いて何かを語り出しそう。それは自分を強奪してきた興福寺の「東金堂衆」への恨み節か?哀愁を感じさせられます。
「金剛力士」。ご存じ血管浮き出し&「リアリズムの終着駅」といえるお二人。見ているこちらまで知らずのうちに何故か力が入って硬い表情になります。どかっと大地に踏ん張って立っている感じがしています。お顔の割に目や鼻口が中央に集約されていることが気になりますが、それはあえて仏師が「力を漲らせる」ためにそう表現したことでしょう。「細かいことまで気にするな。とにかく俺たちを見よ」って声が聞こえてきそうです。
そして天部八部衆「阿修羅」の前に立つ。2か月前に会った時と同じように悲しい目に感じました。「どうしたのか?何が苦しいのでしょうか?」私の投げかけに彼は答えてくれません。以前あったような私に対しての威圧感は全く感じられません…彼の視線は遥か彼方を見ているように感じた…
さらに順路を巡って、「帝釈天・梵天立像」が気になりました。明王や馬頭観音などと同じような火焔光背。
特に「帝釈天」。衣の下に甲冑を覗かせ、左手の印は指二本で作る「刀印」。いかにも「武人」的な装い。涼しげなお顔なのに力強さのオーラを強烈に感じる。
この帝釈天の立っている位置は丁度阿修羅の視線の先に当たります。
そうか、そういうことか…
天上界で壮絶なバトルを展開して帝釈天の軍門に下った阿修羅。現在国宝館の主役の阿修羅でも、視界に入る帝釈天に対して憂いを感じるのは仕方ないことか…負けるな阿修羅(勝手に応援してしまいます)
「帝釈天って悪いやっちゃで〜。インドの経典では阿修羅の娘を『手篭め』にして、怒った阿修羅と戦争して破る。しかも後にその阿修羅の娘も帝釈天と仲良くなるんや、阿修羅ってホンマ可哀そうやで」って私の解説に、T隊員は「しかしアンタようそんなことまで知ってんな〜」って感心した様子。


おっさん三人でシュークリーム

国宝館を出ると時間は昼をとっくに過ぎていたので、近鉄奈良駅付近まで歩いてラーメン屋(前回と同じ「天下一品」)に入る。メニューを見るが老眼の私には見にくい。慌ててメガネを掛ける。T隊員も「最近俺も老眼が酷くなって新聞が…」…考えてみると三人とももう40過ぎ、老化現象が始まっている現実を噛みしめながらラーメンを食べる。
店を出るとT隊員が「ちょっと甘いもの欲しくないか?」と。すぐに見つけたケーキ屋に入ってシュークリームを3つ買う。
そして奈良公園のベンチで食べます。イイ歳したおっさん達が奈良公園でシュークリームを食べる。なんとも不思議な絵だ…
早速、鹿が3匹「うまそうなモノ食ってるな〜」って近づいてきますが「ガルル…」って犬のように唸って追い払う。なんか3人とも不審人物…

そして奈良公園を東に向かって東大寺に向かいます。
風邪気味のN隊員は、チョット遅れ気味になので気を使いながら歩きます。

東大寺の境内は冬の平日ということで人もまばら。今回も法華堂を一直線で目指します。
法華堂への登り道、かつてこの地に建っていた100m超の「七重塔」の宝輪のレプリカを見る。奈良時代にこんな巨大なものが造られたとういう事実。「七重塔をはじめ、大仏殿など巨大な建物が次々に建てられたことを考えると、相当な森林破壊が各地で行われたんだろうな〜」って独り言をつぶやくT隊員。
次に国宝の鐘楼に立ち寄ります。別名「奈良太郎」と呼ばれる大鐘を真下から見上げる。鐘楼を含めてこれも巨大です。「巨石文明って聞いたことあるけど、ここは巨木文明ですなぁ〜」こんどは私の独り言。
振り返ってみるとN隊員は相変わらずドングリを物色しながら歩いている。彼の持っている500mlのペットボトルは2本目に突入しています。


それぞれの法華堂を堪能

お決まりの法華堂。
中に入ると早速N隊員は、本尊の正前で目を閉じ座禅を始めます。彼は本尊の不空羂索観音といつものように交信しているようです。
T隊員は座ったり、歩き回ったりして各仏像を堪能しています。
私は各仏像の近くまで寄って堪能します。私が最近気になっているのは金剛力士の阿形。顎髭がご立派で、西方の砂漠の武人を思わせるお顔。真下から見上げると今にも振り上げた腕が振り下ろされそうな気がします。逆立った髪の毛にクモの巣が張り巡らされているのが気になります。「えぇ〜い、誰かクモの巣を掃ってくれ!」って怒鳴っているようにも見えます。
対する吽形のほうは武器である「独鈷杵」を握る左手の指先が欠損して痛々しい。「イテテ…誰か修復してくれ!」と怒りというよりも、苦悶しているかのような渋い表情です。そしていつものように堂内に貼られた「執金剛神」のポスターを見て「この仏像は見当たらないな〜」って言う拝観者がいました。いつもならお節介を焼いて説明するのですが、今回はやめときました…

堂内に入って小一時間ほどして「そろそろ行こうか?」って誰からもなく言いだす。
実はこ一時間弱の間、三人とも一言も喋らずにいたのに後で気が付く。
それほど今回は思い思いの法華堂を堪能していたのでした。

法華堂を出て、いつものように二月堂に入る。
本尊で超秘仏の「十一面観音」が居られる厨子の前に座って、「お供えの蝋燭に灯が風で中々つかないな〜」って後ろでぼやいている、風邪気味のN隊員の回復を祈って「般若心経」を唱えました。

そして二月堂の舞台から奈良の街を見下ろす。
低くて重い、今にも泣き出しそうな雲が奈良の街を覆っている。

さあ雨に打たれる前に、車に乗って帰りましょう。

T隊員は参道脇にある「木のトンネル」からお気に入りの西の京の風景を見る。
対する「不審人物」風のN隊員は、参道でドングリを拾う。参道を歩いている若い女性参拝者たちは彼をよけて歩いていたことを彼は知らない。思い思いのスタイルで第10回ツアーが始まりました。

お巡りさん、不審人物です。
向うから歩いてくるお姉さんたち、気を付けて。

金堂の周りにはビニールシート。物々しい雰囲気です。

「初のふたり旅、東京へ…」
良いキャッチコピーです。
このポスター、マジ欲しい…

東塔の先端にある「水煙」。
白鳳の匠の技に圧倒される。

東金堂と五重塔。

南円堂。
興福寺の建造物で一番私が好きな建物です。

遂に手に入れた「阿修羅クリアファイル」!10月に訪れた時は売り切れていたもんなぁ…
丸めて見仏バッグに入れていたので帰って開けるとチョイ変形(涙)

一度は撞きたい「奈良太郎」。

法華堂に続く階段。
入江泰吉の有名な写真と同じアングルで撮る。

やはりこの季節で平日は人手が少ないですね。

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