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『刑事ジョン・ブック 目撃者』
【感想】 ★★★★★ H17.8.13
刑事ジョン・ブック 目撃者

 ハリソン・フォードが最高の演技を示し、大絶賛を浴びた名作『刑事ジョン・ブック 目撃者』を観る。ハリソン・フォードの魅力はそのキャラクターになりきる演技力じゃなくて、そのキャラクターをハリソン・フォードそのものにしてしまい、自然に息づくキャラクターに昇華させてしまう力。演技派俳優のともすると鼻についてしまいがちな演技力は、いかにも作り物のキャラクターになってしまうが、彼はどの役であっても地でやっているような錯覚を起こさせる。本作の刑事ジョン・ブックはまさしくそんなハリソン・フォードが完璧にマッチした作品だった。

 冒頭黒尽くめで古めかしい衣装を着た人たちが映し出され、一瞬何世紀も前の時代劇かと錯覚を起こさせるが、近づいてくる馬車にバックミラーとライトが付いているのに気づかされ、物語は不思議な感覚で静かに始まっていく。
物語の舞台はアーミッシュという、キリスト教の一派で世界から隔離されたように近代化を拒み、外社会からの汚れたものが入り込まないようにひっそりと、そして頑固に暮らす人たちが住む集落。実際にアメリカのペンシルバニア州やオハイオ州に居住し、その生活は電気も電話もなく、音楽すらも否定し、その服装もあくまでも質素で黒を基調としている。
そのアーミッシュに暮らすレイチェル(ケリー・マクギリス)と息子サミュエル(ルーカス・ハース)は最近夫を亡くしたばかりで、ボルティモアの姉を訪ねるためにフィラデルフィア駅へ向かう。その駅構内のトイレでサミュエルは偶然殺人事件を目撃してしまう。その目撃者であるサミュエルと母親のレイチェルを守るために奮闘する刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)。殺人事件は意外な展開を見せジョン・ブック自身にも危険が迫る・・・。


この映画はとにかく極力セリフを抑えてられていて、ルーカス・ハースの黒く大きな瞳が印象的なように、主役のフォードやマクギリスの二人も、セリフよりもその顔の表情や眼の動きだけで演技をしていきます。この二人の表情が素晴しいのだ。その表情だけで観ている方は確かにこの二人の心情が伝わってくる。
殺人を目撃してしまうトイレの緊迫シーンや、ジョン・ブックが追い詰められていく展開とサスペンス仕立てだけど、メインは生きる世界の全く違うこの男女のラブ・ストーリーです。ラストでは脚本で2ページほどあったセリフも全部削って、二人の表情だけの演技に委ねられます。とっても大好きなシーンでいつまでも心に残る素敵なシーンです。


ピーター・ウィアーは本作で初めて注目し、以降「ピクニックatハンギングロック」やメル・ギブソンの「誓い」などオーストラリアの初期の作品も含め、「いまを生きる」や「トゥルーマン・ショー」などどれも秀作で、私の大好きな監督です。