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『運命じゃない人』
【感想】 ★★★☆ H21.9.11
“その日僕の家の扉は三回開いた”
 2005年カンヌ国際映画祭批評家週間へ出品されたことでも話題になった、内田けんじ監督の劇場デビュー作品『運命じゃない人 』を観る。最近どうも洋画を観ても面白くないというか、見たい作品が無くて、邦画を続けて見ている。そんな中で評判がよく一番期待していたのがこの作品。

 婚約者の車の助手席から口紅のついたメンソールの吸殻を発見したことで家を飛び出し、一人で生きていくことを決意する真紀(霧島れいか)。恋人のために新しいマンションを買ったのに、一週間でその恋人に出て行かれていまったサラリーマンの内田(中村靖日)。会社から帰ってきたばかりの内田の下に、親友の神田(山中聡)から食事の誘いの電話が入る。待ち合わせのレストランで、未だに前の彼女のことを引きずっている宮田のために、神田はすぐ後ろの席で一人寂しそうに座っていた真紀に、一緒に食事しませんかと声をかける・・・。

 まずこの映画を見た後に、DVDの特典にあった予告編を見て、ホント本編の先に見なくてよかったと安堵する。この映画を未見の方は、私のこのレビューを読むのも止めて欲しいほど、なんの予備知識も無くまっさらの状態で見ることをオススメします。そうすると最高に面白い映画です。
始まりはよくある純情青年の安っぽい純愛映画風。これはちょっときついかなと思っていたところで、途中から話はどんどん意外な方へ弾んでいく。この宮田の純愛のストーリーを中心に、いくつかのエピソードが、時間軸を巧妙に組み替えられて同時進行していく。この練りに練られた脚本の妙、最高です。そして次第に複雑なパズルが組み合っていくように、敷き詰めてあった伏線がひとつになっていく様の心地よいほどの快感が素晴らしい。なによりサスペンス風なところを出しつつも、基本はまったりとしたところが私好みなんだよなあ(^^)
予告編にはこのパズルのヒントになる映像がたくさん入っていて、改めてこの映画を未見の方は予告編は絶対に見ないで欲しい。
それとそのパズルを解いた後に、もう一度見るとさらに面白いというレビューが結構あったんで、すぐ次の日に二回目をみたが、それなりに面白かったけど私はやっぱり最初ほどではなかったな(^^;)

この映画を見て感じることは、当たり前のことだけど自分の知らないところで、いかにいろんなドラマが常に同時進行中であるかというところの不思議さと奇妙さ。そんな数え切れないほどの複雑なドラマの中で偶然に重なり合い、出会ったことで共有される時間と空間は、やはり運命なんじゃないかとさえ思える奇跡のようなものを感じる。まあそれでももちろん、運命じゃない人がほとんどだというところが、人生なんだけどねえ(笑)

キャストについては、知ってる人が驚くほどいなかったが、それが返って新鮮であり、特典映像の初日舞台挨拶で、主演の宮田役の中村靖日が監督に「中村君ってCGみたいだよね」と、いつも言われていたという脅威の肩幅からにじみ出るひ弱さと人の良さをはじめ、他の出演者もほぼはまり役であったように思う。ただねえ、ちょっと物足りないというか欲張りたくなるんだよなあ。監督の次回作の「アフタースクール」並みの豪華キャスティングだったらと、この役はこの俳優になんて考えるだけで楽しくなる。ちなみにその豪華キャストで製作された「アフタースクール」より、こちらの作品の方が私は好きなんですけどね(^^)