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『トロン:レガシー』
【感想】 ★★★ H23.6.18

“観る”から“体感”へ
 1982年、フルCGで次世代の映像を見せてくれた「トロン」の続編として製作された『トロン:レガシー』を観る。予告編で初めて見た革新的な映像は、どれだけ凄い映画ができるのかとっても楽しみな作品だった。

 エンコム社の最高経営責任者となっていたケヴィン・フリンの謎の失踪から20年、息子のサムは27歳に成長していた。今もなおどこかで父が生きていると信じていたサムのもとに、父の友人であったアランが、父から預かっていたポケベルが突然鳴ったことを伝えにやって来た。父からのメッセージを感じたサムは、子供の頃一緒にゲームをするはずだった父が経営するゲームセンターに、手がかりを求めて訪れる。そこでサムは偶然ゲーム機の後ろに隠された、秘密のドアを発見する・・・。

 前作「トロン」のCGが陳腐に思えるほどの、洗練された美しささえ感じさせる最先端の映像技術で見せる、電子空間の素晴らしさに目をみはる。それは青白い光沢を反射して輝く建物や床の鮮やかさにさえ、ため息が出る程。そしてその仮想空間の中で繰り広げられる、数々のバトルシーンは、多彩なアングルとスローモーションを駆使し、どこまでもスタイリッシュに描かれる。そこはゲーム空間なのだから、リアリティがないのは当たり前なんだけど、まったくスキのない完璧な美しさだった。
さらに、今回その映像技術は俳優にまで及び、若かりし頃のジェフ・ブリッジスの顔が完璧に再現された日には、驚きとともに拍手喝さいだった。ただねえ、メイキングで顔に無数の黒い点をつけて演じるジェフ・ブリッジスの姿は、なんだかとっても切なかったなあ。顔の表情さえデータとして取り込んでしまえば、俳優なんて実際に演技しなくてもいいんじゃないかとさえ思わせたが、よ〜く見るとそのCGにより加工された顔はやっぱり微妙に作り物に見え、血の通ってないただのぎこちない表情にしか見えなかった。やっぱりこの領域には、踏み込んで欲しくないなあ。

映像革命とまで言われた、この完璧に作り上げられた仮想空間は、驚きとともに感動すら感じてしまった。ただ、流れるように動くバイクや車の、加速してもカーブしてもまったく感じられない重力は、疾走感も力強さもなく、ただ動きが美しいだけで、見ていて体感するどころか、何か綺麗な映像を見ているだけみたいな感覚になってしまった。まあ#Dで作られた作品なので、実際に3Dで見てたらすごい臨場感だったかもしれないんだけどね。そしてサムと女性プログラムのクオラが、体術で戦うシーンがあるんだけど、これがいちいちポーズはカッコいいんだけど、動きとしては切れもなく、なんだか中途半端だったなあ。

仮想空間の中で繰り広げられるアクションとして、「マトリックス」と比較されると思うんだけど、本作が「マトリックス」と明らかに違うところは、なぜかせっかく仮想空間にいるのに人間の動きだけリアルに描かれている点。それはありえない動きをしてこその仮想空間なのに。そしてあろうことか「マトリックス」でトリニティがビルの間を大ジャンプで飛び越えるシーンや、「スター・ウォーズ」でファルコン号から戦闘機を機銃で打ち落とすシーンなど、そっくりのシーンもあり、このオリジナリティの無さも辛い。なにより私にはクオラの顔が、髪型が似てるからかもしれないが、どうしても片桐はいりにしか見えないという始末(^^;)

期待してたんだけど、世界観やセットばかりが飛びぬけた、なんともバランスの悪い作品になってしまったなあ。