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『悪魔のいけにえ』
【感想】 ★★★☆ H24.7.8

 アメリカで実際に起こった猟奇殺人事件をもとに作られた、トビー・フーパーの監督デビュー作にして伝説のホラー作品『悪魔のいけにえ』を観る。原題は「テキサス・チェーンソー大虐殺」というとんでもないタイトルなんだけど、その残酷性から配給会社の判断で、内容とあまり関係ないこの邦題になったとのこと。当時は「エクソシスト」の影響が大きくて、やたらと“悪魔の○○”というタイトルの映画が公開されてたなあ。

 1台のワゴン車に乗り、テキサス州のある田舎町にやってきた男女5人の若者たち。途中気味の悪いヒッチハイカーを乗せたことで、楽しいドライブが一変したが、なんとか子供時代を過ごした屋敷にたどりつく。到着を喜び合う5人。車のガソリンが尽きかけているということが気がかりだったが、とりあえず近くの小川へ泳ぎに行くことにする。そこへ遠くからかすかに聞こえてくる発電機の音。その音に導かれるように、ある一軒の家を訪ねる。ガソリンを分けてもらおうと思い、玄関で何度も呼びかけるが、誰も現れる気配がない。なおも諦めきれずにドアを開けて、家の中へ入っていった若者に、突然顔にマスクをかぶった大男が襲い掛かってくる・・・。

 この作品を初めて見たときの驚きといったらなかった。「こんな映画作っていいのかよ」ってくらいクレージーで、その作品から溢れだす突き抜けた狂気に、ただただ頭が混乱していく。とにかく人の皮膚で縫い上げただろう仮面をかぶって襲いかかってくるレザーフェイスの、問答無用のパワーと圧倒的存在感に打ちのめされる。必死に逃げ続ける女性と、執拗に追いかけてくるレザーフェイス。悲鳴とチェーンソーのエンジン音が奏でる地獄のアンサンブルは、もはや恐怖を通り越して笑うしかない。そして極めつけのおじいちゃんも含めた一家が勢ぞろいして開かれる恐怖の晩餐会は、まさしく悪夢そのもの。あまりに生々しい精神異常ぶりに、囚われた女性が目をむいて絶叫し続けるシーンの絶望感といったら、見ている方もおかしくなりそうだ。

ドキュメントを思わせるざらついた映像に、血しぶきもなくその異常さだけを極限まで見せつける、トビー・フーパーの力づくの演出。価値観の全く違う者たちから、理不尽に蹂躙される恐ろしさを、あまりにもストレートに表現した本作は、以降のスラッシャー映画に多大な影響を与えたのは間違いないだろう。ラストで夕陽を背に、まるでチェーンソーを踊るように振り回し続けるレザーフェイス。その異様な光景は、決して交わってはいけないもの、常識の枠を超えて存在するもの、そして決して相容れないもの達が、今もひっそりとどこかで息づいている気配を感じさせ、さらに恐怖する。
何度見ても、とんでもない映画だ。そしてなによりそんなことまで感じさせるすごい映画なのだ。