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『マジェスティック』
【感想】 ★★★☆ H18.9.2
マジェスティック 私の大好きな「トゥルーマン・ショー」で演技派として卓越した才能を見せてくれたジム・キャリーが、「ショーシャンクの空」「グリーンマイル」のフランク・ダラボン監督により、再び演技者としての輝きを放ち感動を呼んだ『マジェスティック』を観る。

1951年のアメリカ、ついに脚本家としてハリウッドデビューを飾ったピーター(ジム・キャリー)の前途は洋々であり、野望に溢れていた。しかし戦後ハリウッドに吹き荒れた赤狩りの標的となってしまい、瞬く間に恋人も次回作も失ってしまう。失意の中あてもなく車を走らせるピーターは、通りかかった橋の上でねずみ?を避けるために誤ってハンドルをきり、川へ転落してしまう。海岸にうちあげられて目を覚ましたピーターは、すべての記憶を失っていた・・・。

事故による記憶喪失で、悪気はないがルークとなって町の住人たちを心ならずだまし続けていくピーターを見ている気まずさが、心温まるエピソードの数々も純粋に楽しめなくさせる。そしてこの気持ちをどうしてくれるのかと思っているうちに、失った記憶を取り戻してから最後の大円団まで、ダラボン監督の見事な演出で、完璧に観るものの気持ちを感動へと誘われる。この秀逸な脚本もいい。なんという心地よい感動なんだろう。それからジム・キャリーってほんと見る目があるっていうのか、素晴らしい作品に巡り会える力を持った俳優さんだねえ。
若者たちが爽やかに、時に過激に躍動する作品がまぶし過ぎると感じる年代に自分も入ってしまったのか、劇中でみる年配の俳優さんたちの深みのある表情の方がはるかに美しく見える。そして非米活動委員会の聴聞会に召喚されたピーターがみせた勇気と信念と、それを暖かく見守るアデルやローソンの人々の姿に、いつしか涙が溢れていた。そして自らを省みて思う。私の信念は?
ただ映画館を舞台にしている割に、映画を眺めている観客が、一体となって泣いたり笑ったりするシーンが無く、「ニュー・シネマ・パラダイス」ほどの映画館に対する愛が感じられなかったのが、ちょっと残念だったかな。

映画通の人が言う。まさしくフランク・キャプラのコピーだ。私はキャプラの「或る夜の出来事」以外は観たことないのでよくわからないが、フランク・ダラボンの古き良き時代のハリウッド映画への愛を感じる。まるで昔見たNHKの「大草原の小さな家」のように、アメリカの良心を体現するかのような町の人々のリアリティの無さが、却って新鮮であり心地よい。現実の世界で私たちを取り巻く人間の醜さに、日々心の豊かさをそぎ落とされるように感じる私にとって、人間の良心は渇望するものであり、一瞬でもそんな世界に身を委ねられるこの作品がたまらなくいとおしい。遠くから眺める美しい箱庭のような世界は、ただそれだけで切なく、そして心を癒していく。

お伽話のような甘いストーリーだけど、劇中で描かれる善意によって招かれる陶酔境は、まさしく映画ならではであり、映画の醍醐味なのだ。