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『イリュージョニスト』
【感想】 ★★★★☆ H24.6.24

 「ぼくの伯父さん」シリーズで人気を博したフランスの喜劇王ジャック・タチが、娘のために書いた幻の脚本をもとに映画化された長編アニメーション『イリュージョニスト』を観る。全世界で絶賛された本作は、第83回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされた。

 1959年のパリ、静まり返った客席の前でマジックを披露している老手品師タチシェフ。時代はロックやTVへと移り変わり、タチシェフの時代遅れのマジックでは、職にありつくのも困難だった。そしてあるパーティで出会った酔っぱらいの男の紹介で、遠く離れたスコットランドの離島へと向かうことなる。はるばる汽車と船を乗り継いでやってきた田舎町で披露するマジックは、拍手喝采で迎えられた。そんな村人の中に、タチシェフのことを本当の魔法使いと信じる一人の少女アリスがいた・・・。

 小説の挿絵のような手書きの線の温かさと、まるで水彩画のような淡い色彩で、情景豊かに描かれるスコットランドの海や山、そしてエジンバラの街並みの美しさに、ただただうっとりとしてしまった。日本のアニメの緻密でくっきりと書き込んだ画とは明らかに違う、線1本にかけるアニメーターのこだわりというか、省略された描写の中でもその線の繊細さに驚嘆する。そしてそんな美しい世界の中で繰り広げられる、老手品師と言葉も通じない少女との物語は、優しさに溢れそしてたまらなく切ない。とくにアリスに、自分の別れた娘の面影を重ねて愛情を注ぐタチシェフの健気さと、時代に取り残された男の孤独と哀愁は、アニメーションとは思えないほどの温もりとほろ苦さを感じさせてくれた。ただアリスのあまりの無邪気さには、辟易してしまったけどね(^^;)

細かい説明もなく、特に大きな出来事も起きず、ただ淡々と進んでいく作品なので、評価が分かれるんだと思うんだけど、なぜかこの作品は他の人の感想が全く気にならないのだ。まるで小説を読んでいる時のように、行間を自分で好きにイメージするように、好きに解釈して、それで自分なりに素晴らしいと思えれば、ただそれだけでいいって思える作品。ただ愛おしくなる。こんな素敵なアニメ作品があったんだなあ。

監督のシルヴァン・ショメは、2002年の「ベルヴィル・ランデブー」という作品でも、アカデミー賞にノミネートされ高い評価を得ており、フレンチ・アニメの素晴らしさを世界に知らしめている。思うに近年立て続けに駄作を発表しているジブリが、本作を“三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー 提供作品”として配給しているとは、なんだか寂しい限りである。