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『グランド・ブダペスト・ホテル』
【感想】 ★★★★ H26.11.24
 “伝説のコンシェルジュが、究極のおもてなしとミステリーで皆様をお待ちしています。”
 豪華キャスト陣が話題となり、映画評論家からも大絶賛を受けたウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』を観る。本作は第64回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞している。

 1932年、ズブロフカ共和国。世に名高い豪華ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」を一手に取り仕切る、伝説のコンシェルジェのグスタヴ・H。彼の究極のおもてなしは、宿泊客すべてにいきわたり、それはマダムの夜のお相手までにも及ぶ。ある日懇意にしていたマダムDが、何者かに殺されてしまう。遺産騒動の最中、あろうことかグスタヴにマダム殺人の容疑がかけられる・・・。

 ウェス・アンダーソン監督の最高傑作として絶賛された本作。今までにない粋な笑いを提供してくれるこの監督には、ビル・マーレイ主演の「ライフ・アクアティック」が大いに気に入ったことで、「天才マックスの世界」「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」、そして「ダージリング急行」「ファンタスティックMr.FOX」と立て続けに観たんだけど、どうしたんだろう、「ライフ」以外あんまり面白くなかった。基本他人の人生を、俯瞰で観る楽しさみたいな笑いを追究しているように感じるんだけど、どういう訳かあまり可笑しみが湧いてこなくて、正直今回もちょっと不安だった。

そして観終った今、とっても楽しい気分だ。隅々まで監督のこだわりで作り込まれたセットと、小道具や衣装に至るまで、懲りに凝った世界観で繰り広げられるミステリー劇の面白さ。コンシェルジュとベルボーイの友情を中心に、置いて行かれそうなほどのテンポで進んでいくストーリーの中で、爆笑とまではいかないが、終始クスクスと笑わされていた。あくまで笑いはライトである。すべてにおいてライトではあるが、そのさじ加減が絶妙なのだ。サイレント映画のようなかきわりのセットに、コミカルなアクションは郷愁をも誘い、知的でスマートな笑いに、人生の悲哀や孤独までも描かれ、観ている間ずっと気持ちよかった。素晴らしい。

 そしてやはりこの豪華俳優陣を観れるだけで壮観であり楽しい。事前に出演者をチェックしていなかったのがまた良かった。レイフ・ファインズを始め、ウィレム・デフォーにエドワード・ノートン、ビル・マーレイにエイドリアン・ブロディまで出演しているというのだから驚きだ。さらに観終わった後にメイキングを観て、ジュード・ロウにハーヴェイ・カイテルまで出てることに気が付いてさらに驚いた。そしてなにより素晴らしいのが、こういうスターがたくさん出演すると、大抵いい出来にはならないのがお決まりだが、誰かが特別浮いてしまうということもなく見事に調和し、それぞれが演じるキャラクターの、なんと魅力的なことか。短い出演時間にもかかわらず印象的な出で立ちや動きで、様々なシーンを彩る俳優たちの競演を、ただ眺めているだけで至福の喜びを感じる。

メイキングで出演者はトレーラーに寝泊まりすることはなく、スタッフまで同じホテルで食事したり泊まっていたという話を聞き、さらに作品に温もりが加わる。愛すべき作品がまた一本増えた。嬉しいなあ〜。