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『ザ・フライ』
【感想】 ★★★ H26・8・8

 古典ホラーの名作「ハエ男の恐怖」を、鬼才デヴィッド・クローネンバーグがリメイクした『ザ・フライ』を久しぶりに観る。当時「デッドゾーン」や「ビデオドローム」などをビデオでしか見たことのなかった、あのクローネンバーグの新作が観れるということで劇場まで行ったことを思い出す。クローネンバーグの映画を劇場の大スクリーンで観れた満足感に、さすがの衝撃的なラストで、エンドクレジットはまさかの涙を流していた。それに観終わった後のグッタリ感も、ひどかったなあ。

 ハイテク・エレクトリック展覧会の会場で出会った科学者のブランドルと科学雑誌のジャーナリストのベロニカ。ぜひ見てほしいものがあると誘われたベロニカは、あまり期待せずにブランドルの自宅研究所に向かうが、そこには”テレポッド”と名づけられた、科学の常識を超える驚愕の装置が設置されていた。

 最初に観たときほどのインパクトは残念ながらなかったが、転送ポッドに偶然入り込んだハエと融合してしまった主人公の、特殊メイクによるブランドルバエの描写は、やはり今見ても衝撃的で、CGでは出せないであろうあのねっとりとした質感は、えげつないほど素晴らしい。それにジェフ・ゴールドブラムのすでにモンスター化しているんじゃなと思わせるほどの強烈な顔がねえ、やっぱりいい。

 遺伝子組み換えなどというキーワードから、モラルを無視した行き過ぎた科学への警鐘がテーマとも思えるが、やはりこの作品のメインテーマは「愛」である。もし大切な人が不治の病に侵されたり、または不慮の事故により障害を負ってしまったりして、今までと全く違う過酷な状態に陥ってしまったとき、最後まで変わらない愛を注ぐことができるんだろうか。そんなメッセージを考えると、まさしくこの作品は、もし大切な人が人間でなくなったら、それでもあなたはそのひとを愛することができますか、っていう究極の愛を描いた作品なんだよね。愛深き故のラストの二人の行動は、あまりにも厳しく、そして切ないほどの愛情を突きつける。この究極の愛に目を背けたくなるほどのグロを執拗にねじ込んでくることで、観る者の感覚を麻痺させ、ラストで何の違和感も感じさせずに涙させるクローネンバーグの暗黒の世界、もはやだまって身を委ねるしかないだろう。

しかし当時ジーナ・デイビスの一途でけなげな姿があまりにも可憐で、この作品以降注目していたんだけど、まさか鬼のような形相でマシンガンをぶっぱなす様な女優になるなんて、当時は思いもよらなかったなあ。