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『タクシードライバー』
【感想】 ★★★★ H24.6.17
 ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシの名と才能を一躍世に知らしめた衝撃の問題作『タクシードライバー』を観る。第26回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞をはじめ、世界各国の映画賞を受賞している。ただこれだけの傑作なのに、肝心のアカデミー賞には作品賞や主演男優賞・助演女優賞などにノミネートされただけで、監督賞にはノミネートすらされていない。そしてなんとこの年のアカデミー賞の作品賞は「ローッキー」が受賞している。この1976年はアメリカの映画界が、アメリカン・ニューシネマに代表される悩めるアメリカから、アメリカン・ドリームへと舵を切った瞬間だったのかも。

 不眠症に悩むトラヴィスは、タクシードライバーとして毎夜ニューヨークの街を治安の悪い地区も構わず走っていた。下町の汚れきった人々を見るたびに、ひとり孤独を感じるトラヴィス。そんな荒んだ日々に、一人の女性が目に留まる・・・。

 ベトナム帰還兵として、心を病んでしまったトラヴィスを、派手なネオンに、ギャングや娼婦が溢れかえったニューヨークの下町は、夜ごとあざ笑うかのように息づいている。まともな人間はどこにもいない、自分だけが正しいと一人孤独を抱えるトラヴィス。悩めるアメリカを象徴する主人公は、そのストレスから次第に狂気へとらわれていく。デ・ニーロの不気味なほど無表情だった顔は、次第に狂気で歪み、衝撃のラストへと微笑みかける。心の闇を映し出すデ・ニーロの演技に背筋が凍る。
終始流れるけだるいサックスの音色は、決してなくなることのない現代社会の暗部に、引き込まれた人々を虜にするように、観終わった後も頭の中を切なく鳴り響く。引き込まれてしまったことさえ忘れてしまうように。