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『タンゴ
【感想】 ★★★☆ H18.1.15
タンゴ 「髪結いの亭主」や「仕立て屋の恋」など、男と女の機微を官能的に描き続ける名匠パトリス・ルコント監督の『タンゴ』を観る。ルコントの独自の視点は、時にフェチであり偏執的であり、いわゆるスケベである(笑)。本作はそんなルコントが趣を変え、男の性をウディ・アレンばりの軽妙なコメディに仕上げた作品なのだ。

 愛する妻に裏切られ、不倫相手もろとも殺害してしまったヴァンサン(リシャール・ポーランジェ)のもとに、ある日二人の男がやってくる。一人は自らの浮気性がもとで妻に逃げられた男ポール(ティエリー・レルミット)。もう一人は、ポールの叔父であり、女性と暮らさないことが最良の人生という信念を持つ男エレガン(フィリップ・ノワレ)。ポールは自由を得られたはずが、逆に妻をさらに想う様になり、その苦しみから逃れるために妻を殺して欲しいとヴァンサンに依頼する。そのポールをたきつけるエレガンは、ヴァンサンを無罪にした裁判官であり、弱みを握られたヴァンサンは仕方なくポールの妻殺しを承諾する・・・。

 お互いの女性観をぶつけ合う3人のおっさん達が、道中で巻き起こすグズグズ感漂う空間は、ただそれだけで可笑しくもあり哀れである。それぞれが抱く女性達への想いは、愛であり不信であり、そして愛おしさであり憎しみでもある。「いれば面倒、いないと寂しい」と、一緒に暮らすことの矛盾は認識していながら、それでもなお女性を求めてやまない男たち。それは一人っきりでは踊れないタンゴのように・・・。
世の男たちが泣いて喜びそうな本質を突くセリフの数々に、かなり一方的なものを感じるが、女性に置き換えても妙な説得力があり、男と女の尽きない執着と悩みの種は可笑しくも切ない。

本作は小品の割りに、出演者が豪華なのも嬉しい。「ニュー・シネマ・パラダイス」のフィリップ・ノワレや「ディーバ」のリシャール・ポーランジェ。そんな名優たちが演じるおっさん達は、やっぱ魅力的なんだなあ(笑)。それに「読書する女」のミウ=ミウまで出演してるという、なんとも贅沢なキャスティングなのだ。

日本で一躍有名になった「髪結いの亭主」をはじめ悲観的な作品が多い監督だが、本作はかなり楽観的であり心地よいラストもあり、ルコント作品の中でも「橋の上の娘」と並び大好きな作品なのだ。