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『アンコール!!』
【感想】 ★★★☆ H21.10.10

 “歌わにゃいかん 理由ができた。”
 2013年最高の「泣ける」感動作!!という触れ込みで、ネットでもかなりの高評価をうけ、ぴあ初日満足度ランキング第1位というよくわからないものまで獲得した『アンコール!!』を観る。映画紹介で書かれるあらすじからほとんどどんな感じの映画かわかってしまう、いわゆるありがちな映画の印象があり、これまで観る機会がなかったが、偶然見た予告編で速攻ブルーレイを購入した。まさか予告編でウルウルさせられるとは。

 人付き合いも悪く、いつもしかめっ面の頑固じいさんアーサー72歳。今日も公民館へ合唱団“年金ズ”の練習をしている妻マリオンを迎えに行く。仲間たちに囲まれ楽しそうに歌っている妻を、アーサーは一人部屋の外で終わるのを待っている。病弱なマリオンが、合唱団に入って歌うことを心配していたが、ある日、国際コンクールへのオーディション参加へ向けて練習をしていたマリオンが倒れてしまう。恐れていたガンが再発し、余命数か月と診断される・・・。

 ストーリーの前半は、倒れてしまったマリオンに懸命に愛情を注ぐアーサーの姿が描かれるんだけど、自分は誰にも理解されなくてもいい、妻にだけわかってもれえれば他は何もいらないと、いじらしいほど献身的に看病するアーサーと、その愛情を優しく受け止め、アーサーに心をゆだねるマリオンとの、うらやましいほどの夫婦愛に涙涙。マリオンがアーサーに向けて歌う「トゥルー・カラーズ」のシーンでは、もはや画面が見えないくらいの涙大決壊である。これはダメでしょう。世界中でたった一人、自分のことを理解して愛していてくれた人が突然いなくなってしまうという喪失感と哀しみは、映画だと分かっていても、見続けることがただ辛いという気分になってしまった。
このままこんなきつい感じで最後まで行かれたら観るのを止めようと思ってしまったが、後半アーサーが一人になってしまってからが更にいい。亡き妻のためにも、息子のためにも生き方を変えようとするアーサーと、それを優しくそして温かくサポートする音楽教師と仲間達。戸惑いながらも新しい第一歩を踏み出すという、ありがちな展開ながら、ここから映画は俄然楽しくなり、輝いていく。途中、マリオンが歌い上げた後、当然アーサーは温かく迎えると思っていたのにふてくされてしまうシーンがある。自分のこの頑なな性格のために、妻を長い間幸せに出来ていないと落ち込んじゃってるんだよね。しかも息子とも上手くいってない。いままで自分は何をやっていたんだろうって。予定調和の展開ながら、こういう割り切れない繊細な心理描写が随所に挿入されていて、上手い演出にどんどん引き込まれていった。加えて、テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴの名優二人のナチュラルな演技の素晴らしいこと。テレンス・スタンプと言えば、すぐに「プリシラ」の年配のゲイを思い出すが、年齢を重ねてほんといい顔になってきましたねえ。
監督のポール・アンドリュー・ウィリアムズが、テーマはアーサーの贖罪だと言っていた。亡くなった妻のためにも、そして息子や支えてくれた人たちのためにも、ここはカチカチの殻を破って、歌わにゃいかん。素直に正直に自分の気持ちを相手に伝えてこそ意味がある。愛情を出し惜しみしちゃあいかんです。音楽教師のエリザベスが、アーサーに向かってこう言う。「生きづらそうな性格ね」。このセリフって、身に染みる人、たくさんいるだろうなあ(^^)。踏み出す勇気さえあれば、もっと楽に生きれる。もっと人生をエンジョイできる。観る人に勇気と幸せを感じさせてくれる作品でした。

ただ私的には、ラストでアーサーが歌った後にコンクールのシーンはすぐ終わっちゃうんだけど、あそこはまたみんなで合唱するシーンで終わってほしかったかなあ。まだ一歩踏み出したばかりなんで、これからのアーサーの生き方を暗示させるだけでよかったということか、静かに終わっちゃったんだけど、もうちょっと合唱団のメンバーとの一体感を出してほしかったかも。映像特典では、マリオンの友達と絡むシーンとかあったんだけどねえ。まあ、ああいうあっさりした感じもいいかな(^^)