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スモーク
【感想】 ★★★★ H18.7.21
スモーク 現代アメリカ文学を代表する作家ポール・オースターの短編小説をもとに、都会の片隅に生きる男たちの日常を暖かいまなざしで描いた『SMOKE』を観る。ベルリン国際映画の銀熊賞に輝いた本作も、映画好きが必ずあげる一本であり、ハートウォーミングという言葉がピッタリの映画なのだ。

1990年の夏、ブルックリンの街角のタバコ屋では、店主のオーギー(ハーヴェイ・カイテル)を囲んで男たちが“女と葉巻”について語り合っていた。そこへタバコを買いにやってきた小説家のポール(ウィリアム・ハート)は、みんなに“煙の重さ”についての話を聞かせる。ポールは数年前に銀行強盗が通りに向けて撃った流れ弾によって妻をなくしており、以来小説が書けなくなっていた・・・。

ぼ〜っと歩いていたポールが、車にひかれそうになったところを助けた黒人少年のラシードの出現により、それぞれの人生が何かに導かれるように動き出し、何かに引き寄せられるように交差する。ハーヴェイ・カイテルに、ウィリアム・ハート、フォレスト・ウィテカーの、演技派が演技派と言われる所以を体現するような、抜群の表現力がもう素晴らしいの一言。ウィリアム・ハートのナチュラルさとフォレスト・ウィテカーの思わず唸ってしまう程の旨さ。そんな中でもハーヴェイ・カイテルの、オーギーの人生が浮かんでくるような哀愁を帯びたオーラに、人情味あふれた深みのある表情は、彼以外には考えられない程の絶品の演技だった。最近では手当たりしだいにチョイ役で出演してる感が強いハーヴェイ・カイテルだけど、本作は「レザボア・ドッグス」と並ぶ代表作だね。また、意外な役でアシュレー・ジャドが出演していたりして、この出演者たちが奏でる何気ないシーンが、実に見ごたえ十分なんだなあ。

劇中で語られる“煙の重さ”や”雪崩にあった男の話”からオーギーのクリスマスの話まで、アメリカでもそういう表現をするのか、まさしく煙に巻くような話なんだけど、どれも味わい深く、小説を読んだ時のように文章の奥にある何かを感じさせる。いろんなところに含みが隠されているようであり、その何かは観た人のそれぞれの解釈であり、そこにこの作品の魅力があるように思う。私が感じた何かは絆だった。それは親子の絆であり、夫婦の絆であり友との絆。そしてそれはタバコの煙のようにとらえどころがないものだけど、信じる心によって結ばれるべくして結ばれるもの・・・、なんてね^^;
そして、ポール・オースターのいう"信じるものが一人でもいれば、その物語は真実に違いない”は、人生における幸せの定義のように感じた。

ラストで味わうカタルシスは、何度観ても褪せることなく、観るたびにしみじみと心が潤う大好きな作品なのだ。