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『ボビー・フィッシャーを探して』
【感想】 ★★★☆ H21.7.4
ボビー・フィッシャーを探して アメリカ人として初の世界チャンピオンとなった伝説のチェス・プレイヤー、ボビー・フィッシャーの再来と呼ばれた天才少年の成長を描いた『ボビー・フィッシャーを探して』を観る。この作品は隠れた名作として、高い評価をよく目にしてたが、今日までなぜか見る機会が無かった。
チェスにはまったく馴染みが無かったことを差し引いても、ボビー・フィッシャーをこの映画を見るまでまったく知らなかったとは恥ずかしい。さっそくネットで調べてみると、彼は14歳で全米選手権のチャンピオンになり続けて8連覇を果たし、1972年に世界選手権を制したあと、1975年に突然姿をくらましてしまう。そして1992年に宿命のライバルに勝利した後またもや消息不明となってしまう。伝説と呼ぶにふさわしいなんともドラマチックな人生を歩んだ天才だったが、驚いたことに去年の2008年1月に64歳で亡くなっていた。

 ジョシュは野球の好きなごく普通の少年だったが、ある日息子のチェスの才能を感じ始めていた母親が、公園で行われているストリートチェスに参加させたことから、その才能を開花させ始める。同じくとてつもない才能を確信した父親は、少年をプレイヤーとしても一流だった名コーチ、ブルースに英才教育を依頼するが・・・。

 オーディション数千人の中から選ばれたジョシュ役のマックス・ポメランツ少年の、澄み切った大きな瞳をはじめ、出演者すべての瞳が印象的な作品だった。顔のアップを多用し、地味だけど細かい瞳の動きで静かに語りかけてくる、スティーブン・ザイリアン監督の演出が素晴らしい。そしてジョシュ少年の勝負の怖さを知って尚、さらに高みを目指すことで、立ちはだかる壁を越えていく健気な姿に胸が熱くなり、ラストでは思わず涙が。ほんとにいい子です。ちょっといい子過ぎる(笑)
過度な期待をかけることで次第に厳しい表情となっていった父親やコーチの瞳が、少年のチェスに対する純粋な心に触れ、次第に優しいまなざしに変わったいく様も心地いい。人生にとって本当に大切なものが何かを、天才とその周りの人々の苦悩を通して、感じさせてくれる素敵な作品だった。

キャスティングについてはマックス・ポメランツ君もよかったが、本作で脇を固める二人の俳優が良かった。ジョシュ少年にチェスの攻撃を教えるストリートチェスの凄腕ヴィニー役のローレンス・フィッシュバーンと、チェスの守りを教える名コーチのブルース役のベン・キンブズレー。豪華でいて渋い演技が作品をおおいに引き立てていた。最近のセリフなり過剰な演技でまくし立てる映画を見慣れていると、私はやっぱりこういう作品の方が好きだなあ〜、なんて思ってしまう。まあそういいながら、火薬の量も大好きなんだけどね(笑)

 今こうしてこの作品のレビューを書いてると、ある人物が浮かんできた。それはつい先日惜しくもこの世を去ってしまったマイケル・ジャクソン。偶然とはいえこのタイミングでこの映画を見たことで、ほんの少しだけど天才の苦悩と悲しみが伝わってきて、改めて彼の死に胸が痛む。マイケル・ジャクソン、安らかに。