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『心の旅』
【感想】 ★★★☆ H18.7.21
心の旅

 ハリソン・フォードが既にハリウッド映画のヒーローとしての地位を確立していた頃に、「刑事ジョンブック」で演技派としても新たな魅力を発揮し、その集大成のような静かな演技で話題を呼んだ『心の旅』を観る。残念なことにハリソン・フォードは本作で満足してしまったのか、なぜか以降再びアクションの世界へ帰ってしまう。興行的なものなのか、根っからのヒーロー好きなのか分からないけど、本作のハリソン・フォード結構好きだったんだけどなあ。

 エリート敏腕弁護士ヘンリー(ハリソン・フォード)は、今日も過失により告訴された大病院の弁護に立ち、見事な弁論により被告側勝訴を勝ち取る。ただ仕事で成功することだけが彼の人生の目的であり、その目に息子を失った老夫婦の悲しみの姿が映る事はなかった。ある夜、タバコを買いに出たヘンリーは、偶然店にいた強盗に遭遇し、胸と頭を撃たれてしまう。幸い命はとりとめたが、その後遺症として体を動かすことも口を利くこともできず、記憶さえも失ってしまう。しかし、献身的な看護士たちによるリハビリにより、ヘンリーは再び生きる力を取り戻していく・・・。

 始まってすぐ見慣れないハリソン・フォードのエリートぶった尊大な振る舞いに、かなり不愉快にさせられる。しかしこのフリが抜群に効いていて、それまで周りの人や家族すらも省みることがなかったヘンリーが、人間らしさを取り戻していく姿に心地よい安らぎを感じていく。

最後の方で娘が入った寄宿学校の先生が、なぜこんな勉強しなければならないのかと生徒達に問う。続けて先生は周りはみんな競争相手なんだから、負けないためにも一生懸命勉強しましょうと言う。人との触れ合いによって育まれていく、人を大切に思う心と人を愛する心。この映画を観た後は、人に対してすごく優しい気持ちで接することができる気がする。まあそんな気持ちでいられるのもわずかなんだけど(笑)。この作品は観るたびに自分にとって、人生にとって一番大切なものが何かを改めて確信させてくれる。

本作のハリソン・フォードの抑えた演技も素晴らしかったが、聡明でいじらしい妻役をいとおしく演じたアネット・ベニングの好演が光る。同じ年に公開された「真実の瞬間」でも、同じような献身的な妻役を演じており、この頃そのナチュラルな演技で評論家達に絶賛されていたのを思い出す。さすがプレイボーイのウォーレン・ビューティーをおとした実力は伊達じゃないというところか(笑)。そしてエリックを励まし続けるリハビリのトレーナーのブラッドリーを演じたビル・ナンの、ポジティブな明るさに自分も救われた気持ちになる。友人達の心無い言葉に傷ついたヘンリーを、励ましに来たブラッドリーがドアの影からぬっと現れるシーン、一番好きなシーンだね。

普遍的なテーマで、今となってはありきたりのストーリーに、よく考えると記憶を失う前のヘンリーも、自身にとってはそれなりに充実した人生を送っていたんじゃないかと考えると、内容が優等生過ぎるようにも感じる。しかし同じような作品が並ぶ中で、一番誠実で素直に感動できる作品だった。