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『ミッドナイト・イン・パリ』
【感想】 ★★★★ H24.6.10
 ウディ・アレン作品のなかで歴代最高の大ヒットとなり、第84回のアカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・美術賞の4部門にノミネートされ、脚本賞では見事オスカーに輝いた『ミッドナイト・イン・パリ』を観る。観客を魅了し、さらに俳優たちも彼からのオファーを熱望し、新作を熱望され続けるウディ・アレン。アレンの作品を劇場で観るのは今回が初めてで、私もただそれだけで嬉しくなる。

 パリに婚約者イネズと婚前旅行にやってきた脚本家のギルは、以前からパリに憧れ、ゆくゆくはここで暮らし、小説家になろうと夢見ていた。イネズはそんなギルを理解できず、家族や友達とショッピングやパーティを満喫していた。ギルはその夜パーティーが終わった後、次の店に踊りに行こうというイネズの誘いを断り、一人ホテルへ歩いて帰ることにする。気が付くと道に迷い、途方に暮れて座り込んでいるギルの前を、一台のクラシックを思わせる黄色のプジョーが止まる・・・。

 オープニングで次々に映し出されるパリの街並み。おお!憧れのパリよ。これからどんな物語で私を虜にしてくれるの?なんてことは思わなかったが、パリってだけで素敵な出会いを予感させるね。前日まで作品の存在も知らず、予告編もあらすじも読んでなかったので、いきなりヘミングウェイやピカソが現れ、やっと今回はファンタジーなんだと気が付く。ストーリーは昼は現実の世界、夜は1920年代のパリという奇想天外な一日を何度も繰り返すというもの。キラ星のごとく集う伝説の芸術家たちに囲まれ、戸惑いながらもその世界のとりこになっていくギル。巧みに観客のインテリへの憧れと渇望を刺激する。これだけでは少なからず鼻についてしまうんだけど、ウディ・アレンは彼独特のシュールな表現でえせインテリを拒絶する。薄っぺらい文化人・知識人を拒絶する。このえせインテリ達が至る所に闊歩する現実の世界から逃げるように、1920年代のパリへタイムスリップするギル。この主人公こそまさしくウディ・アレンの分身であり、そんな姿を客席からを見ている人たちは、私も含め大きくうなずき、拍手を送っている。まるで自分が本物のインテリに近づいたような錯覚を感じながら。まさしくウディ・アレンの魔法にかかったように。見ている間その魔法にかかり続ける心地よさと言ったら、もうこころはパラダイスである。
そしてラストに、そんな夢見る人たちに、強烈な一撃をくらわす。私は現実に引き戻され、そして今この時を、悔いのないように生きることで、幸せを勝ち取ってほしいというアレンからのメッセージを受け取る。ウディ・アレン、やっぱり素晴らしい!

さらにキャスティングも素晴らしいのだ。頭の悪そうな役が多かったオーウェン・ウィルソンは、キャラクター的には地味なごく普通の男ギル役を、とってもナチュラルな演技で鮮やかにこなしてみせる。そこへさらに二人の美しい女優が華を添える。婚約者イネズを演じたレイチェル・マクアダムスは、ともすればいや〜な役柄になっただろうイネズを、憎めないキュートな存在に仕上げる。そして絶世の美女アドリアナを演じたマリオン・コティヤールは、エレガントでうっとりするほどのミューズのオーラを身に宿らせていた。他にもエイドリアン・ブロディやらキャシー・ベイツやらたくさん出てるんだけど、どの役も個性的で印象にしっかり残る演技を見せてくれた。

ただ一点、アレン作品もストレスを感じるところがある。それは素晴らしいセリフの応酬が繰り広げられるんだけど、あまりのセリフの多さに字幕を読むのに必死で、肝心の画面に目がいかないことがちらちらとあるのだ。最高の演技でセリフを言っている俳優の表情がはっきりと見れないのが、だた一点、辛いんだなあ(^^;)