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『めがね』
【感想】 ★★★☆ H20.4.5
 “なにが自由か、知っている”
 大ヒット作『かもめ食堂』のキャストとスタッフが再集結し、再び話題を呼んだ『めがね』を観る。この作品、たぶん『かもめ食堂』を見た方は、またあの空気を感じようと必ず見ちゃうでしょうね(^^)。見る前から既に、同じようなたんたん系で、見終わった後の癒し感がまたいいんだろうなあ、みたいな感じが、このジャケットの写真からビンビン伝わってくるし。

 ある南の島にプロペラ機が着陸し、二人の女性が空港に降り立つ。サクラ(もたいまさこ)はまるで近所に買い物に出掛ける様に、手提げ袋一つといういでたち。一方タエコ(小林聡美)は地図を片手に、大きなトランクをゴロゴロと転がしながら歩き出す。そして迷わずに旅館ハマダにやってきたタエコに向かって、宿の主人ユウジがこう言う。「才能ありますよ、ここにいる才能」

春の柔らかい日差しの中で聞く、目もくらむような海が奏でる波の音と、かすかな鳥のさえずり。まさしく、
“春の海 ひねもす のたりのたりかな”
の世界がそこに広がる。都会の喧騒から逃れて、どこか遠くへ行ってみたいと願う私たちに、映画はこんな場所でたそがれてみないかと囁きかける。なにかと島の生活になじめないタエコに共感しながら、私もたそがれるの下手だろうなと苦笑いする。何かしてないとなんとなく不安になる気持ち、あるよなあ〜(^^)
この映画、正しいたそがれ方でも教えてくれるのかな、とか思いながら見ているところに、突然薬師丸ひろ子(かなり意外な登場シーンだった)が現れて、「みんなで協力・尊重しあい、土に触れることで生きてる実感を得て・・・、わかるでしょ?」と言うシーンがあり、ふと感じた。生きている実感なんて、当然人から与えられるものでもなく、ましてや人から設定されるものでもない。また、むりやり得ようとするものでもなく、自分次第で感じ取れるもの。そしてそれをごく自然に感じられることができたら、こんな幸せはないだろうなあ〜、なんて本作はそんなことに気付かせてくれる。

ただそんなメッセージを映画ははっきりとは見せないようにしているが、なんだか終始見ている者に投げかけてくるように感じさせるんだなあ。登場人物たちの設定はほとんど省略され、ユウジとサクラは大変な関係だとか、タエコを先生と呼ぶヨモギとの関係とか思わせぶりな会話だけが随所にちりばめられる。前作の『かもめ食堂』に比べてさりげなさが影を潜め、人間関係も希薄で、なにか見ている者に、「どう?想像してみて」と丸投げされているように、その語られないものから何かを感じ取りなさいみたいなメッセージを感じる。かなり見る者の感性を試されている気分だ。サクラは謎の人物のままでいいんだけど、せめて主役のタエコなり、宿の主人のユウジにはなにか掘り下げるエピソードが欲しかったな。でも相変わらず小林聡美ともたいまさこの息のあった間と空気は、ただそれだけで気持ちが楽になっていくんだなあ(^^)

映画を見てる間は、あの島でのひと時を疑似体験しているように穏やかな気持ちを共有し、ずっとたそがれに染まっていた。そしてその幸せ感は、耳に残る波の音のように、見終わった後もしばらくじわ〜っと続いていた・・・。
ああ〜、私にもそんな時間とお金でもあればなあ〜(笑)