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『空気人形』
【感想】 ★★★ H22.4.24
 “心を持つことは、切ないことでした”
 「誰も知らない」や 「ディスタンス」など海外でも高い評価を受けている是枝裕和監督が、業田良家原作の短編コミック「ゴーダ哲学堂 空気人形」を映画化した『空気人形』を観る。ネットで偶然見た予告編が妙に気になり、オフィシャルサイトで流れる音楽がとっても心地よかったので、「私・・・見てしまいました」(^^)

 東京の下町のある古びれたアパートの一室で、空気人形に話しかけながら食事をする秀雄。ある朝、秀雄が出かけた後、ベッドに横たわる空気人形が静かに動き出す。窓から差し込む光を浴びて、空気人形のビニールの体は次第に人間へと変わっていく。そして空気人形はつぶやく。
「私は空気人形。心を持ってしまいました・・・」

 ふっと吹けば消えてしまいそうな弱さと儚さをにじませながら、吹き込まれた命を謳歌しようとする空気人形を、ただ見ているだけで愛しくて、そして切ない。隅田川の水上バスのシーンの、吹き抜ける風の心地よさと、ペ・ドゥナの透き通るような無邪気な表情。なんて素敵なシーンだろう。命とは心。心とは誰かによって満たされるもの。そして命とは誰かの心を満たしてあげるもの。周りの大切な人たちを無性に愛しく思わせてしまう作品だった。

ただファンタジーというには、あまりにも生々しいシーンが随所に描かれており、その度に気分が滅入っていく。素晴らしい演技をみせるペ・ドゥナの、一糸まとわぬ姿が映し出される度に痛々しく、あろうことか部品を自分で洗うというとんでもシーンは、もはやグロテスクという言葉しかなく、それまでゆっくりと作品に吹き込まれた優しい空気は、一瞬に吐き出され、ただただ気分が滅入ってしまった。現実の世の中は決してファンタジーのような夢の世界ではなく、薄汚れて醜い負の部分が存在し、心を満たされない人達で溢れているというところを、あえて生々しく痛烈に表現したんだろうけど、そんなことは映画を見ている人は誰でも分かってることであり、改めて見せる必要があったんだろうか。ただのファンタジー映画ではない深みを持たせるために、監督が意図したことなんだろうけど、私はそこが生理的に受け入れられなかった。たくさんの人たちから高評価で支持された作品であり、素敵なシーンもたくさんあったんだけど、見終わった後はいい映画を見たというには程遠い気分になってしまった。