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『マウス・オブ・マッドネス』
【感想】 ★★★ H26・3・31

 “覗くな、狂うぞ。”
 私の大好きなジョン・カーペンターが、今世紀最大の怪奇小説の巨星といわれたハワード・フィリップス・ラヴクラフトの世界を描いた、あんまり知られてないけどちょっと異色なホラー作品『マウス・オブ・マッドネス』を観る。だいぶ昔に観たきり、DVDとかも廃盤になりずっと見れずにいたんだけど、ついにブルーレイで発売されさっそく購入し観ることに。ただ一度観ているはずなのに、どういう訳か後半のあたりがまるで記憶にないのだ。退屈で眠ってしまったんではないかという不安もよぎったが、まあ記憶にないことで、とりあえず初めて観るようなドキドキ感を楽しみながら再見することはできた。

 保険の特別調査員ジョン・トレント(サム・ニール)の下に、出版社の社長から二か月前に消えた人気ホラー作家サター・ケーンの調査を依頼される。手がかりを得るために、初めてサター・ケーンの本を手にしたトレントは、その日から不気味なモンスターに襲われる悪夢を見るようになる・・・。

 この映画は観客を主人公同様に、狂気の世界へと誘う作品である。この作品のチラシにはなんと、「精神不安定の方は決してご覧にならないで下さい。確実に狂います!」なんていう警告まで載っているのだ。何を大げさなと思うが、その手の映画としてすぐに私が頭に浮かべる作品として、クローネンバーグの「ビデオドローム」があるが、本作はそれと同様な狂気を、カーペンター流のB級テイストで仕上げたような作品である。
まずオープニング早々に、主人公と同じように観ている方も、何が起きてるのか分からないという状況へ、突然放りこまれる突き放し感いい。その狂気と恐怖の映像は、始まってすぐに現れるんだけど、作品中でも私の最も好きなシーンだ。それは街中でサター・ケーンの代理人に突然襲われるシーン。主人公とエージェントがお店の窓際のテーブルで打ち合わせをしているんだけど、その窓の奥の方から斧を持った男がフラフラと道路を渡ってゆっくりと近づいてくる。逃げ惑う人々をよそに、斧を持った男はゆっくりと主人公の方へ近づいてくる。主人公は話に夢中になっていて、窓の外の様子にまったく気が付いていない。血を流し見開いた狂気の目に、振り上げられた斧・・・。相変わらずカーペンター作品は導入部が秀逸だ。そして次第に悪夢と現実の区別がつかなくなっていく主人公とともに、不条理な世界に囚われ、観ている方も混乱させられていく心地よさ。さらに唐突に現れる物体Xを思わせるグロテスクなモンスターもいいが、やはり暗闇の中を白髪の老人が自転車をこいでいるとか、血だらけの犬を子供たちが追いかけているという、なんとも気味悪いシーンがたまらない。思わず今晩夢の中に出てくるんじゃないか、なんて考えてしまう。そして後半に入っていくと、ますます加速する不条理に振り回されながらも、なんとか結末を色々と探らせてくれる楽しさもまた気持ちいい。

そんな不気味で気味の悪い印象的なシーンが、ちょいちょい出てきて喜ばせてくれるんだけど、ただクライマックスへ向けての、あわただしいほどの端折り感がどうにも惜しい。肝心のクライマックスがあっさりしすぎで、まあこのラストのバタバタ感は、カーペンターらしいといったららしいんだけど、もっと衝撃的に演出で来たんじゃないかと思ってしまう。震え上がるような恐怖を期待すると、ちょっと残念かなあ。それでも観終わった後、また見たくなるという中毒性を感じさせるところが、やっぱりカーペンター、凄いよなあ。