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『インターステラー』
【感想】 ★★★☆ H26.12.20

 “愛する者のために、使命を果たせ”
 「ダーク・ナイト」シリーズ、「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督が描くSF大作「インターステラー」を観る。なんとなく予告編を見てただけで、あのCGだらけで映像以外みるものがなかった「ゼロ・グラビティ」と、同様の映画がまた出たみたいな印象しかなく、ほとんどスルーしていた作品だったが、私がよくお邪魔するanupamさんのブログ「シネマトリックス」で今年No.1という記事を読み、慌てて劇場へ観に行く。

 自然環境の悪化により、植物は疫病に侵され、人類は食糧不足という危機に追い込まれていた。宇宙飛行のテストパイロットだったクーパーは、技術者は必要とされない今、農業を続けていたが、偶然娘の部屋に示されたメッセージから、人類が別の星へ移住できるためのプロジェクトが進行していたことを知る・・・。

 評論家をはじめネットでも大絶賛の本作、まさかこれほど本格的なSF作品だとは思わなかった。相対性理論を始め、ワームホールやらブラックホールに、特異点だ5次元だと、とにかく専門用語が飛び交い、激しく混乱する。予告編から感じていた宇宙を舞台に、父娘の愛情を扱ったドラマと思って、軽い気持ちでいったのに、そこで待っていたのはクリストファー・ノーラン版の「2001年宇宙の旅」かと思わせるほどの難解なSF作品だった。宇宙ステーションのフォルムや、あのモノリスを激しく連想させるロボットに、グリーン・スクリーンを全く使っていないというアナログなセットなど、かなりキューブリックの「2001年宇宙の旅」を意識しているのがわかる。相対性理論でいう時間と空間の概念を、初めて科学理論に忠実に映像化させるというノーラン監督の、見たこともない映像はどれも刺激的であり、SF映画というジャンルの中であらたな領域へ踏み出した意欲作というか、そのチャレンジ精神に感服する。神々しいブラックホールに、あの土星の輪のなんと美しいことか。
当初父と娘の親子愛で、宇宙へと旅立った父を待ち続ける娘との絆に、ぼろ泣きさせられる映画だと思っていて、テーマもそういうところにあるものだと思っていたが、私の印象は全く違った。期待していたこの親子愛は、驚くほど私の中には入ってこず、ただ宇宙とは、科学とはをひたすら考えさせられる作品だった。難しい科学理論に振り回され、自分のことしか考えない科学者のエゴに振り回され、3時間という長い上映時間も含め、観終わった後の呆然観というか、どういう作品だったのか正直いまだによくわからない。

私がこの作品を観た後に、最初にしたことは相対性理論の本を買うことだった。無性に知りたくなったのだ。そこで初めて理解した。ノーラン監督が狙っていたことは、映画を観に来た観客に、この何かを知りたいという探求心に火を付けることじゃなかったのかと。人類が怠ってはならない、あくなき宇宙や科学への探求心。そして人類自体の宇宙規模でみる資質にまで問いかける壮大なテーマを掲げた作品だったのだろうと。

キャストも意外に豪華だったので驚いた。いきなりジョン・リスゴーにアン・ハサウェイだもん。主人公のクーパーは恥ずかしながらしばらくわからなくて、これだけの大作に無名の俳優と言う訳はないと思っていたら、マシュー・マコノヒーだと分かった。私は彼が苦手である。「U−571」を観て、驚いた顔がなんでこんなに頭の悪そうな顔になるんだろうと思ってしまい、それ以来だめなのだ。他にも意外な役で意外な有名俳優が出演していたりと、見応えがある。

 かえすがえす残念だったのは、これだけ解釈が難しい作品だったので、これはパンフレットを買わねばと思っていたのに、レイトショーだったため、上映が終了した23時半は売店が閉まってて買えなかったこと。しかたなくいろいろネットで調べてみると、知れば知るほど科学的考証に正確に裏付けされた内容であるとともに、登場人物の名前にさえ、知識ネタや深読みネタが満載だったということが分かった。私は何でもかんでも作品を深読みしてうんちくをたれるというのは好きではないが、この作品は深読みすればするほど面白いという、もはや別次元の作品だったのだ。なんだかあれほどテーマパークのアトラクションで上映される程度の作品としか認めていなかった「ゼロ・グラビティ」が、無性に可愛くなり、もう一度見たくなった。