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『ハリーとトント』
【感想】 ★★★★ H22.3.21

 1975年の第47回アカデミー賞の主演男優賞を受賞し、脚本賞にノミネートされたポール・マザースキー監督の『ハリーとトント 』を観る。本作はタイトルだけはよく耳にしていたけど、なかなかDVD化されず見る機会がなくて、近頃やっとDVD化された名作なのだ。じいちゃんがアメリカ大陸を横断するというロードムービーなんだけど、同じ様な作品にデヴィッド・リンチの「ストレイト・ストーリー」があるけど、どちらもとっても素敵なじいちゃんが登場します。そして私の大好きなロードムービー、やっぱり面白いなあ(^^)

 ニューヨーク市マンハッタン、72歳になるハリーは妻に先立たれ、年老いたネコのトントと一人古いアパートで暮らしていた。しかしそのアパートも再開発のために取り壊されることになり、立ち退きを断り部屋に居座っていたハリーだったが、強制退去させられてしまう。駆けつけた長男が身柄を引き取り、同居を始めるが嫁とそりが合わず、ハリーはシカゴに住む長女を尋ねに行くことにする・・・。

 年老いて妻や友人達にも先立たれ、一人猫と共に生きる孤独な老人のロードムービー、なんて書くとなんとも寂しい映画のようだけど、まったくそんな映画じゃなく、ペーソスを漂わせながらも、旅の先々で訪れる数々の出会いに、生きる喜びをしみじみと感じさせてくれるあったかい映画なのだ。人生も終盤を向かえ、変わり行く環境を嘆いてばかりの日々が、立ち退きをきっかけに、勇気を持って新たに一歩を踏み出したことで、いままで経験したことのない出来事に遭遇し、再び人生が輝きだす。“限りある命、もっと人生を、今日という日を楽しもう!”なんてメッセージが聞こえてくる。

 本作で主演男優賞を受賞したアート・カーニーの、厳格でいて趣のある演技と存在感が素晴らしい。なんといってもこの年の主演男優賞にノミネートされた、ゴッドファーザーPRATUのアル・パチーノやチャイナタウンのジャック・ニコルソンなどそうそうたる顔ぶれを押さえての受賞だもんね。特にシカゴに住む娘との再会のシーンでみせる、エレン・バースティンとの掛け合いは印象的だった。父親の一番嫌いなはずの頑固さのDNAを受け継いでしまった娘と、会うたびに反発しあい口論となってしまうが、それでも心の中でお互いを認め合ってるという複雑な親子愛を、見事に表現していた。なんともジーンと胸に沁みる素敵なシーンたっだ。エレン・バースティンはこの年のアカデミー賞主演女優賞を『アリスの恋』で受賞しており、実はあのシーンはその年のオスカー同士が揃った凄いシーンだったんだよねえ。

老いや人を受け入れることの大切さとか、素敵な人生を送るコツをユーモラスに、そして優しく教えてくれる作品でした。