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『グラン・トリノ』
【感想】 ★★★★ H21.4.30

グラン・トリノ 今やアカデミー賞も常連の大監督となったクリント・イーストウッドの、「ミリオンダラー・ベイビー」以来となる監督・主演の『グラン・トリノ』を観る。なぜかついこないだ授賞式のあったアカデミー賞にまったくノミネートもされず、つい最近まで話題にも上らなかったが、TVでの予告編やネットでの高評価に、俄然見たくなり久しぶりの劇場へ行くことに。上映前の予告編でいきなり忠犬ハチ公がハリウッドで映画化されると知り失笑し、監督が私の大好きなラッセ・ハルストレムと出て驚いた。う〜ん、やっぱり見ないだろうなあ(笑)
続いてなんと「スタートレック」が新しく映画化されていた。しかもたぶんスポックはレナード・ニモイだった。これは見に行かねば(^^)

 ウォルト(
クリント・イーストウッド)は妻に先立たれ、二人の息子とその家族達にもその頑固さから敬遠され、一人孤独な生活を送っていた。話し相手は愛犬のデイジーであり、楽しみといったらピカピカに磨き上げた愛車グラン・トリノを眺めること。ある夜その愛車を盗みに入った少年をライフルで追い返す。その少年は隣家に住むモン族のタオで、不良の従兄弟に無理やり命令されてのことだった。そして再び車を盗むよう脅しに来た不良たちから、思いがけずタオを助けてしまったウォルトは、タオの家族から感謝され、それをきっかけにお互いの家を行き来するようになる。ウォルトは今まで偏見の目でしか見れなかった近隣の人たちと言葉を交わし、タオを息子のように感じ始める。だが不良たちが再びタオのもとに・・・。

 前半は誰に対しても侮蔑的で、人種についても偏見の塊のような頑固オヤジが、ひょんなことから隣のアジア系移民の家族との交流で、次第に心を開放していくハートフル・ムービ。まるでジャック・ニコルソン主演の映画のような、人生の哀愁と再生を描くような意外な展開に、いつしかクスクスと笑い、温かい気持ちになっていく。多分このままいっても素晴らしい映画になってたんじゃないかと思ったけど、そこはイーストウッド印、衝撃のラストに向かい、人生において生きることの厳しさと残酷さを鋭く突きつける。事前に「王様のブランチ」などのTV番組でかなり内容が分かってしまい、ラストも予想してたが・・・。イーストウッド最後の出演作と言われているが、この心を揺さぶられる感動のラストは、不思議な安堵感のような余韻を残し、映画ファンにいつまでも語り継がれる名シーンとなったんじゃないかな。

よくこういう映画で形容される言葉が、古き良き時代のアメリカの魂への郷愁であり、本作にもそういう含みがある。ただ私はこれは現実逃避的な回帰心を煽る映画じゃないように感じた。未来ある若者達に大人たちはどういう道を標せるか、そしてどんな希望を託すのか、そんなことを問うた作品だったんじゃないかと思った。終始ウォルトの家の玄関に掲げられるアメリカ国旗から分かるように、これはイーストウッドからアメリカ国民に向けたメッセージであり、その根底にはついこないだまで溢れ返っていた言葉“チェンジ”があるのだろう。
ただラストでは涙し、ここまで褒めちぎってなんだけど、途中で最初にウォルトが親しくなった隣家の娘スーが暴行されたシーンがあるんだけど、私はこういうシーンが絶対にダメで、どんなにいい作品でももう二度と見たくなくなってしまう。それからいつも同じキャラクターに成ってしまうイーストウッドの、自分で監督して自分が一番カッコよすぎるところがちょっと(^^;)でもこのウォルトの役は、イーストウッド以外にはいなかっただろうなあ。

しかしこういうアメリカ映画を見ていつも思うことは、こんな恐ろしい世界が身近に隣り合っているアメリカって、どんだけ恐ろしい国なんだろう。片やノー天気に歌い踊り、夢や希望を語り、片や人種と貧困が激しく混じり合う、なんてカオスな世界なんだろう。まあほんとのアメリカという国を知らないだけだと思うけど、つくづく日本って平和だよなあ(^^;)

最後にパンフレット800円は高いでしょ〜。続けて見た「レッドクリフPATU」でも600円だよ〜。