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『ゴールデンスランバー』
【感想】 ★★★☆ H23.6.10
 2008年の本屋大賞や山本周五郎賞を受賞した、伊坂幸太郎の同名ベストセラー小説を映画化した『ゴールデンスランバー』を観る。監督の中村義洋は、伊坂小説とは「アヒルと鴨とコインロッカー」や「フィッシュストーリー」に続く3度目のコラボとなった。

 仙台の街中、大学のサークルで一緒だった旧友の森田(吉岡秀隆)に久しぶりに再会した青柳(堺雅人)は、無邪気に手を振る。再会を喜ぶ青柳に、森田は静かに自分が今多重債務者で窮地にあることを告白する。時を同じくして、二人が乗り込んでいた車のすぐ後ろでは、故郷へ凱旋した首相の街頭パレードが行われていた。
「お前はオズワルドにされるぞ」
森田が戸惑う青柳にそう告げた瞬間、パレードの方向から凄まじい爆発音が響いた・・・。

 まるでハリウッド映画の巻き込まれ型サスペンスを、仙台の街並みでこじんまりに撮影したらこんな映画になりました、って感じの作品。ハリウッドならハリソン・フォードを使うが、堺雅人を主役に持ってくるところがこの作品の肝なのだ。オープニングのサスペンスフルな展開が素晴らしく、伏線を張り巡らせつつ気持ちいいほどテンポよく展開するストーリーに、目が離せない。まああまりにも都合よく進んでいくので、次第にサスペンスの要素は失っていくんだけど、とにかくコーエン作品のように次々と現われる個性的な登場人物たちの、魅力溢れる人間臭さがいい。特に通り魔殺人犯のキルオと暗殺者小鳩沢の、ハリウッド映画的なユーモアと凶悪さを併せ持つ突き抜けたキャラクターが秀逸で、それを中村義洋監督作常連の濱田岳と、新境地を開いた長島敏行が嬉々として演じる姿が印象的だ。他にも香川照之や柄本明など演技派の俳優達をずらりと揃え、それぞれが短いシーンながらも強烈な個性を発揮し、楽しませてくれる。
 所々で挿入される、青春時代に思いを馳せるノスタルジーなシーンにしんみりとさせられるが、あくまでもコミカルでいて明るく軽いテイストの作風は、見ていて楽しいんだけど、主人公達に感情移入するにはどうにもリアリティがなく、たぶん一番盛り上がるはずだったろうクライマックスのド派手なシーンが、不思議なほど心に響かなかった。そして巻き込まれ型の事件で、ラストに誰もが期待しただろうカタルシスが、まったくなかったのが残念だったなあ。してやったりのラストだったんだろうが、私はそんな風に感じてしまった。

それでも交わされる会話も含めて、最後までまったく飽きさせないテンポのよさは、見ている間とっても楽しくて、次の日にまた見てしまうことに。しかも伏線がはっきり見えた分、2回目は別の楽しさで見ることができた。そして見終わった後は、こんなに面白い原作がいったいどうなのか無性に読みたくなり、ネットですぐに注文してしまった。ただ文庫本で690ページなんて、どんだけ読み応えがあるんだか(^^;)