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『殺しのドレス』
【感想】 ★★★★ H18.7.9

 独特のカメラワークと映像テクニックで、現代サスペンスの第一人者の名を世界に知らしめたブライアン・デ・パルマの代表作『殺しのドレス』を観る。昔デ・パルマといえば「キャリー」ぐらいしか知らなかったが、このポスターの挑発的でいてセンスを感じさせるデザインに惹かれてビデオを借りたのを思い出す。今回観たのは完全版だったのか、観た事ないシーンが結構入ってた。調べたら上映時間が昔観たバージョンより約4分程長くなってた。同じくスリラーの神様といわれたアルフレッド・ヒッチコックの「サイコ」へのオマージュ的作品といわれるが、当時やっと現れたヒッチコックの後継者って感じだったなあ。

 夫婦生活に不満を抱くケイト(アンジー・ディギンソン)は、精神科医のエリオット(マイケル・ケイン)のカウンセリングを受けていた。ある日性への欲求を抑えきれないケイトは、美術館で行きずりの男と関係を持ってしまう。男の部屋で目を覚ましたケイトは、偶然机の中にあった診断書から男が性病に感染していたことを知る。失意の中慌てて部屋を出てエレベータに乗ったケイを、突然何者かがカミソリで切りつけてきた。下の階でエレベータを待っていたリズ(ナンシ・アレン)の目の前で開くエレベータの扉。リズは驚きの中、血まみれになりながら手を伸ばすケイトの姿と、犯人の姿を見てしまう・・・。

 「サイコ」へのオマージュよろしく、冒頭のシャワーシーンから目線のように動くカメラワークに、顔や目のアップだけで恐怖心理を伝える演出が、ヒッチコックを髣髴とさせる。また以降デ・パルマの十八番となる、美術館でケイトが迷路の中をさまようがごとく長回しでうつろうカメラワークが素晴らしい。今回初めて気がついたんだけど、ケイトの心情のように途中でカメラがグラッと揺れて不安定になったりと、かなり細かい演出がされていたんだと感心する。そしてやっぱり一番のシーンはエレベータで襲われるシーン。最初にカミソリが手のひらにザクッと食い込み、そのまま振りぬく時の痛々しさ。そのあと滅多切りから、血だらけの腕がエレベータの扉に何度も挟まれて揺れるシーンまで、残酷なんだけど目を離せない見事なカットの連続。エレベータの中の鏡にスローモーションで映る、三人のショッキングなカットに身震いする。完璧なストーリー展開に、衝撃のラストまで見応え十分の作品なのだ。

ただヒッチコックと明らかに違うところがある。この上品な味わいを残すポスターとは程遠い、卑猥で下品な演出。まあ嫌いじゃないんだけどその品の無さは、そんなとこそんなにねちっこく撮る必要があるのってくらいしつこい(笑)。そんなシーンより、ヒッチコックのように女優さんの美しい表情でも入れて欲しいね。まあそれがデ・パルマだといえばそうかもしれないが・・・。

キャストについては、やはり当時デ・パルマと結婚していたナンシー・アレンのコケティッシュでいてキュートな魅力が光る。彼女自身にとっても次回作の「ミッドナイト・クロス」とあわせて代表作となった。その後デ・パルマと離婚して、さっぱり売れなくなったのは寂しい話である。しかしメイキングで久しぶりに見た彼女の、相変わらず魅力的な姿に感激。かたやアンジー・ディキンソンは、当時すでに50を過ぎていたので、メイキングでは立派なおばあちゃんになってました。