滅びゆく階級社会のデカダンスと、カウンターカルチャーを色濃く作品に反映させた巨匠ルキノ・ビスコンティの『ベニスに死す』を観る。「山猫」や「家族の肖像」など、タイトルは聞いたことがあるが、初めてのビスコンティ作品である。この時代のヨーロッパの巨匠たちの作品は、思想性に根ざした作品が多く、観る前から構えてしまうというか、不安がよぎる(笑)
ドイツの高名な老作曲家アッシェンバッハ(ダーク・ボガート)は、体調を崩したことから静養のためにベニスを訪れる。そこでかれは少年タージオ(ビョルン・アンドルセン)に出会い、その少年から究極の美を感じてしまう。以来心を奪われてしまったアッシェンバッハは、タージオを求めてベニスの町をさまよう・・・。
始まって約8分間まったくセリフがなく、かなりの不安を抱く。っというか、全編を通してもセリフは最小限にとどめられ、ただ延々と格調高い音楽と映像が流れていく。この作品を最後まで集中力を切らさずに観るには、相当の覚悟と精神力がいると思われる(笑)。私も最初の30分はやばかったが、なんとか最後まで観ることができた。
ビスコンティが自分のイメージ通りのシーンが出来るまで、何度もテイクを重ねて作り出した映像は、ただひたすらに美しい。ラストで主人公が目にするシーンはため息が出るほどだった。ただその美しさはあくまでもビスコンティがイメージする美であり、、美少年タージオに究極の美をあまり感じなかった私は一人取り残される。ビスコンティがイメージする耽美な世界に共感できない、自分のセンスの無さがもどかしいが、この作品はかなり観る人を選ぶと思う。
それでもいつかこの作品を傑作と呼べるように、自分の感受性が熟成されるのを求めてやまない。そんなことも感じさせる、不思議な作品だった。
|