サブリナの休日トップページホラー

『ゾンゲリア』
【感想】 ★★★☆ H26・3・31

 数あるゾンビ映画の中で、一線を画すというただその一点だけの前情報で、ずっと見たかった『ゾンゲリア』を観る。何が他のゾンビ映画と違うのかというところは、全く知らないが。ただ、この作品が公開された80年代は、78年のロメロの「ゾンビ」のヒットを受けて、それまでのオカルトブームからゾンビものをはじめスプラッター映画がわんさか公開された。なかには「サンゲリア」なんて似たようなタイトルのゾンビ映画もあり、この間もう何が何やら分からない時代なのだ。そんな残酷描写ばかりが売りのゾンビ作品の中でも、この作品はマニアの間でも有名な異色作品だと言われている・・・らしい。

 ある静かな田舎町、海辺で砂浜にうちあげられた空きビンや鳥などをカメラで撮っている男。突然そのファインダーの中に、若い女性が写り込む。女性は微笑みかけながら「あなたは有名なカメラマン?」と声をかけてくる。すぐに意気投合する二人。カメラの前でポーズをとる女性が、シャツの前をはだけ男を誘う。戸惑いながらも男は女性の下に歩み寄る。と、突然数人の男達が男に襲い掛かる。木に網で体を巻きつけられ、身動きできずにいる男を取り囲む不気味な集団。照明をあて、カメラを撮るもの、8mmカメラで撮影するもの、ただ薄笑いを浮かべる者。やがて怯える男の頭にガソリンがかけられ、火をつけられる。何事もなく静かに撮影し続ける集団の中で、こだまする男の絶叫・・・。


 まずオープニングはピアノの静かな調べと、美しい海岸に波音、そして偶然出会う男と女、なあんてメロドラマ風に始まる。これゾンビ映画?、一瞬フランス映画か何かかと錯覚する。まあそれは一瞬で、すぐに残酷シーンに変わるんだけど、町の中に潜む謎の集団によって繰り返される殺戮と、その謎を追う保安官を中心にストーリーは進んでいく。ただいくら経ってもゾンビは全然出てこないのだ。よくあるゾンビ映画だと思っていたので、かなりいい意味で裏切られ、サスペンス仕立てで進んでいく物語にどんどん引き込まれていった。それでもやはりホラー映画ではあるので、目に注射針を刺したりとか、石でつぶされた顔面のアップだったりとか、ちょいちょい放り込まれてくるえげつないシーンに目を背けつつ、物語は次第に破滅の匂いを濃くしながら、不気味に進行していく。この辺で、あいつちょっとおかしいなあとか、こいつもちょっと変だぞうとか、いろいろ想像を掻き立てられ、なんとも気分がいい。
そしていよいよクライマックスに向けて、次々と真相が明かされていくんだけど、ここの畳み掛けるように明かされていく演出が素晴らしく、エンディングでは苦々しい程の切なさに加え、ずっしりと沈み込むようにのしかかる絶望感に、見事に打ちひしがれる。なるほど、そう来ましたか。今でさえまあありがちなラストだといわれるかもしれないが、私は好きだなあ。それから何が怖いって、こんな異常な人間たちが、何事もなく普通の生活の中に紛れ込んでいて、誰も気が付かないってところが恐ろしい。しかし、これゾンビ映画っていうのかな。命を冒涜するという意味で、やはりゾンビ映画なんだろうけど、そのジャンルに括り付けるにはもったいない作品だった。
ただこの「ゾンゲリア」っていう、B級感丸出しのタイトルは、どうにかならなかったのかねえ(^^;)