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『ブロークン・フラワーズ』
【感想】 ★★★☆ H19.1.2

ブロークン・フラワーズ 05年カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞した、ジム・ジャームッシュ監督の最新作『ブロークン・フラワーズ』を観る。主演は「ロスト・イン・トランスレーション」や「ライフ・アクアティック」などで、最近ますます老いの哀愁オーラに磨きをかけるビル・マーレイ。このコンビにカンヌグランプリの肩書き、さらに世界中を笑いと感動で包んだというコピーまで入ってるんだから、もう観るしかないでしょう(笑)。

 コンピューターでひと財産を築き、休日は悠々と自宅で静かに映画を観るドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)は、初老を迎えた今も独身だった。ある日一緒に暮らしていたシェリーは、いつまでたっても結婚や子供のことなど将来について真剣に考えないドンに愛想を尽かし家を出て行く。そんな日に差出人不明の一通のピンク色の手紙が送られてくる。手紙には20年前に別れた女性が、自分の子供を宿し、今19歳となるその息子が父親探しに、二日前に家を出たと書かれていた。差出人の母親を確かめることにあまり乗り気でないドンだったが、隣家に住む友人の勧めで、心当たりのある4人の女性を探しに旅に出ることに・・・。

 物語は淡々と進むため、こういう淡々系の映画が苦手な人は、たぶん速攻で眠くなるだろうなあ(笑)。評価が低いのもそういうところだと思うけど、私はこのなんともいえない、じわりじわりとくる淡々系が好きなんだよなあ。
若い頃から放蕩し、初老を向かえてなお現実を直視できない男が、突然突きつけられた厳しい現実に、戸惑いながらも初めて目を向けようとする。20年を経て、昔付き合っていた女性たちに会いに行くという、自分に置き換えただけで気まずさ大爆発のシチュエーションにもかかわらず、ピンクの花束を抱えて訪ねて行くという、あまりにも現実を捉えていないドンの厚かましさに、ただそれだけで可笑しくなってしまう^^;。自分と別れた後の彼女たちの人生は、自分の中ではいつまでもただの思い出だけであり、二人の時間はそこで止まったまま。それ以降の彼女たちの、自分が存在しない人生の歩みなど、自分も含めほとんど考えることはない。それでもそれぞれの人生は今なお現在進行形であり、そんな現実を目の当たりにすることは、なんとも複雑な心境になるだろうなあ。そんなことを思いながらセンチメンタルな気分になり、ビル・マーレイが放つ哀愁のオーラに、次第に切なくなってくる。そしてたった一通の手紙によって、想像もしてなかった場面に立ち会うことになるドンを見ていると、ジャームッシュが言う、偶然に導かれる人生がなんとも愛おしくなってくる。

また、この昔の恋人たちを演じる4人の豪華女優陣がいい。シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・ウィントンと、かつての美貌は色あせてしまったが、女性としての魅力と存在感はますます輝いている。コンピュータで儲けて、ドン・ファンのようにもてもてだったという設定に程遠いビル・マーレイのキャスティングは、かなり無理があったかと思うが、彼の醸し出す男の哀愁とキュートさは、そんな設定など関係なしに作品に魂を吹き込む。いやあ〜、いつまでも「ゴースト・バスターズ」の頃のイメージが強いが、随分味わいのある俳優になったものだ^^。
ただ、ちょっと前に見た「アメリカ、家族のいる風景」と、かなり似た設定であったことで比べてしまうんだけど、見終わった感はまったく違い、私的には「アメリカ・・・」の方が・・・好きだなあ。

 さて、ここからはある謎について、私なりの考察をしてみたので、まだこの作品を観ていない方はネタばれしてますので注意してください。

ラストは、うわあ〜まさかここで終わるんじゃないだろうな、ここで終わったらこれは難しいぞう〜って、思った瞬間にほんとに終わってしまいます。それぞれの解釈に任せる委ね系のラストは、なんともずっしりと心に重くのしかかったままになって。さらにじゃあほんとの母親は誰だったんだろうという謎まで残ったままになってる。そこで絶対どこかにヒントがあると思っていたら、やはりありました。冒頭の手紙をポストに投函するシーンなんだけど、手紙を持つ手が左手なんですよね。そう、母親は左利きなんですよ。これを踏まえて、訪ねていく女性たちの食事とかのシーンを検証していくと、左利きの女性はいないんです。私の推理は、手紙の差出人はシェリーだったんじゃないか。微妙に彼女が左利きというところははっきりと映されてないんだけど・・・。シェリーがピンクの手紙をドンに渡すときに、わざわざ一番上に差し替えて渡してたり、その手紙の中で“現実を受け入れ、ひとりで育てました”というくだりがあり、誰よりもドンに現実を受け入れてほしかったのはシェリーだったから、そういう内容の手紙になったのも頷ける。何より彼女の着ていた服がピンク色だった。実は彼は一番身近なピンクに気がつかなかったんですよねえ。なんとも切ない話です。どうでしょう?この推理^^