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『ブルーベルベット』
【感想】 ★★★★☆ H21.1.31

ブルーベルベット 「マルホランド・ドライブ」「ツイン・ピークス」の鬼才デヴィッド・リンチ監督のカルトスリラー『ブルーベルベット』を久しぶりに観る。本作は私が一番最初に出会ったリンチ作品であり、そのあまりの衝撃で最初ははっきり言って良く分からなかったが、次第にその悪魔的な闇に魅せられて、以降リンチワールドを追いかけるきっかけとなった作品なのだ。
 
 静かな田舎町ランバートン、大学生のジェフリー(カイル・マクラクラン)は、突然の発作により倒れた父を見舞いに行った帰り、空き地で偶然人間の耳を拾う。謎に興味を持ったジェフリーは、事件の真相を知るため、耳を届けた刑事の家を尋ねるが、これ以上深入りしないように諌められてしまう。しかし同じ様に興味を持った刑事の娘サンディ(ローラ・ダーン)から、事件に関わるある女性の名前を知る。ジェフリーはサンディにその女性ドロシー(イザベラ・ロッセリーニ)の部屋に、害虫駆除の作業員となって入リ込むので、手伝ってほしいと持ちかける・・・。

 何事もないごく身近な日常の世界と、背中合わせのように潜む闇の世界。偶然耳を拾ったことで迷い込む、甘美と暴力が渦巻く不条理な世界に、見ているものも次第に引きずり込まれていく。それはまるで行き場のない迷宮に迷い込んだように、常に不安を掻き立てる。自分のどこにそんな世界を欲している心があるのか、気がつくと禁断の部屋に踏み込んでしまっている感覚。め、めまいが・・・。

 デニス・ホッパーの怪演やイザベラ・ロッセリーニの官能美が光るが、やはり画面に映る隅々にまでこだわり抜いた映像で見せる、目に見えているものの裏側に隠れる、暗く不気味な闇を強烈に感じさせる、リンチの妖しくも美しい世界が素晴らしい。オープニングの発作で倒れた人間が握ったホースから出る水に噛み付く犬と、その画面の奥からよちよち歩きで近づいてくる子供。このシーンだけで、私はもうぞっとしてしまった。夜道に犬の散歩の途中で突っ立っている男とか、すべてに意味があるよう感じさせ、見る者に常に不気味な想像を掻き立てさせる。そう、それがリンチワールド。未だにその評価は二分される程、見る人によってまったく違う印象を与えるこの異色作、しかしこの不条理な世界は、今も私の心を引きつけて離さない。

DVDにかなりボリュームのあるメイキングが収録されているんだけど、そこで語られるデヴィッド・リンチへのキャスト・スタッフ達の証言やエピソードが最高に面白かった。例えばリンチは子供の写真と一緒に、常に鶏肉をバラバラにした写真を持ち歩き、部位の写真を色々入れ替えたりしてるっていうエピソードとか、やはり普通の人では描けない世界なんだと納得する(笑)この人の目に映ってる世界は、もはや誰にも想像できないんだろう・・・。