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『アヒルと鴨のコインロッカー』
【感想】 ★★★ H22.1.11
アヒルと鴨のコインロッカー 人気作家伊阪幸太郎の同名小説を映画化した『アヒルと鴨のコインロッカー』を観る。本作は評価も高いがファンがとても多い作品で、邦画のランキングでも上位でよく見かける映画だった。ただ私も時々この意味不明のタイトルが気になってはいたが、邦画をあまり好んで見ないことからずっと見る機会がなく、今回はたまには邦画でもと探していたところ、偶然見つけて見ることに。

 新しい大学生活のスタートを送るため、仙台のアパートへ引っ越してきた新入生の椎名。隣人への挨拶もそこそこに、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみながら、引越しのダンボールを片づけていた。そこへ後ろから不意に声を掛けてきた男がいた。男は隣の部屋の住人で、川崎と名乗り、気さくに椎名を自分の部屋に招待してくれたが、そこで川崎は突然自分と一緒に本屋を襲わないかと持ちかけてきた・・・。

 気の弱い主人公の、初めての一人暮らしというほのぼのとしたオープニングから、偶然隣り合わせることになったアパートの部屋の住人に、突然本屋襲撃の手伝いをさせられるという、謎だらけだかどこかゆるい笑いに包まれた前半。これは絶対にコメディ作品と思わせといての、後半急展開の謎めいたシリアスな展開まで、飽きることなく一気に見せる。後半のストーリーについては見る前に分かってしまうと、作品自体の魅力が半減してしまうので詳しくは書かないけど、なるほど〜、そういうことねえっと感心させられる仕掛けがあり、ラストには前半からはまったく予想出来ない程の、胸が締め付けられるような切なさが心を包む。

ただ多分に好みの問題だと思うんだけど、前半のゆるい雰囲気を退屈と感じる人もいるだろうけど、私はこの前半の部分が大好きで、なんならあのまま突っ走って欲しかったぐらい。そしてむしろ評価されることの多い後半の、伏線が絶妙に効いてくる巧みな展開の部分が、あまりにもドラマチックにするための無理やり感と、えげつなさが生理的に苦手だった。例えば動物虐待とかの殺伐としたエピソードはホントに必要だったのかなんて。なんとかボブ・ディランの歌で、切なさは保っているけど、どうもねえ・・・。

キャスティングについては登場人物は少ないが、まさにはまり役だった主人公の濱田岳をはじめ、瑛太や大塚寧々とさすがの実力を発揮していたが、ある意味肝心の松田龍平の役が、いまひとつ魅力が感じられなかったのが惜しい。まあ松田龍平については、ほとんどが絶賛されているレビューばかりなんで、これも好みの問題なんだけど(笑)

ネタばれ全開にになるんでまだ見てない人はここからは読まないで欲しいんだけど、ラストについてどうしても一言。原作は読んでないので分からないけど、ラストが映画とはちょっと違うらしい。ただこの変えられたラストで私が感じたことは、あの牛タンを食って居眠りしてしまう椎名のノー天気な終わり方ってどうなんだろうって思った。主人公は隣人の過酷な過去を知ってなお、あのラストの行動でしかしてあげることができなかったという、自分の無力を痛烈に感じるという、ほろ苦いラストで良かったんじゃないかな。なんでまた最初のほのぼのに戻しちゃったんだろう。あそこではじめてこのタイトルが効いてくるんだと思うんだけどなあ。なんて偉そうに語ってしまったけど、んん〜、原作はどうなんだろうなあ。

これだけ人気がある作品なので、自分がまだ発見しきれてない魅力があるみたいに思えて2回見たんだけど、どうにも消化不良で終わってしまったことがもどかしい(^^;)