レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

3DO REAL
    〜砂上の楼閣、次世代マルチメディアプラットフォーム構想〜

種  別:インタラクティブ・マルチプレイヤー
     (CD-ROM内蔵型家庭用テレビゲーム機)
メーカー:Panasonic,The 3DO Company
発 売 日:1994年2月
価  格:5万4800円


 悲しいハードである。
何故悲しいかといえば、当時おいらは誤ってこのハードを買ってしまったから、
である。
しかもビックカメラで5万円近くも出した記憶がある。

 のっけから愚痴になってしまったが、このハードは少々変っていて、そもそ
もアメリカに3DOという統一規格の家庭用ゲーム機があり、昔のMSXのよ
うに多くのメーカーから互換機が発売されていたらしい。
その3DOが日本進出を果たした時に、国内用3DOを最初に発売したのが、
Panasonic(松下)で、松下の3DO機の商品名が「REAL」なの
である。

 実にややこしい話だが、この3DO規格が成功していれば、日本国内でも各
社から3DO規格のゲーム機が発売されていたはずであり、現に三洋からはR
EALに続く3DO機TRYが発売されたし、他のメーカーからも発売の動き
はあったらしい。

 3DOは「次世代ゲーム機」ブームの中で最も最初に発売されたゲーム機で
あり、当時市場にはまだプレイステーションやセガ・サターンは無く、競うべ
き相手はスーパーファミコンだけだった。
16bit CPU ROMカートリッジ式のスーパーファミコンに対して、ゲーム専用機初
の32bit CPUを搭載し、CD-ROMを始めから内蔵していた3DOは性能面では圧倒
的に有利だった。

 しかし、3DOの弱点は「キラーソフト」、つまり、多くのユーザーに「あ
のゲームがやりたいから、あのハードを買おう」という決心させる為の魅力的
なゲームが無かったことである。
ハード発売日にキラーソフトの存在は絶対不可欠で、例えばスーパーファミコ
ンなら、スーパーマリオワールド、プレイステーションならリッジレーサー、
セガ・サターンならバーチャファイターといった具合に、どんなにハード性能
が優れていても同時にメガヒット級のソフトを用意できなければ売上には結び
付かない。

 3DO発売時に同時リリースされたソフトでおいらが覚えているのは、「ウ
ルトラマン・パワード」と山村美砂原作、小川範子主演の実写サスペンスアド
ベンチャーゲームくらいである。
 それぞれ悪いゲームではないと思うが、どうも万人受けする説得力に欠ける。
結果的に3DOで「キラーソフト」的な役所を務めることになるのは後にワープ
がリリースした「Dの食卓」だが、本体発売から少々出遅れてしまっている。

 キラーソフトを用意できなかった松下は、かなり大規模な宣伝活動を行い、イ
メージでこのハードを売ろうという作戦に出た。
曰く、3DOを「インタラクティブ・マルチプレイヤー」と呼び、「次世代マル
チメディア時代の家庭内プラットフォーム」に位置付けた。
既にして何を言っているのか分からないあたりで、かなりやばい。

 強引に意訳すると「インタラクティブマルチプレイヤー」とは、CD、フォト
CD、CDGの他に追加でビデオCDも見れて尚且つ、ゲームが出来るプレイヤ
ー、という意味であろう。
インタラクティブとは双方向という意味で、通信機能を持たない3DOの場合、
該当するのはゲームしかない。
ある意味では、ブロック崩しですらもインタラクティブ・メディアである。

 次に「次世代マルチメディア時代の家庭内プラットフォーム」。
イメージとしてはパソコンに取って代わる次世代メディア、具体的にはインタ
ーネット接続機やDVD再生機までも取りこんだ何でも出来る型のゲーム機、
という意味だと思われる。
 ただし、3DOには、通信機能もDVD再生機能も無いが、まあ、3DOが
まだ存在していればそのような仕様にしたかったのだと思う。
現在のイメージに置き換えて言うと「IT担当家電」として、3DOを位置付
けたかったらしい。

 3DOREAL発売時、松下の担当者は、「3DO=ゲーム機」という評価
を好まなかった。
「3DOはゲーム機ではなく、家電であり、次世代マルチメディア時代の・・」
という呪文にも似た言葉を繰り返していた。

 しかし、結果的に3DOは、ゲーム機以外の何物でもない。
CDプレイヤーなら、3DOでなくても困らないし、フォトCDやCDG、ビ
デオCDの一般的な需要はそれほど高くない。

 これが松下の第一の失策である。
ファミコンのレビューでも書いたがファミコンが成功したのは、ゲームに特化
したからこそ、である。
「何でも出来る」を売り文句に実は何も出来ないパソコンに失望したゲームユ
ーザーを取りこむことが出来たからだ。
「何でも出来る」かのようなイメージ戦略を打ち出しながら実際にはゲーム以
外何も出来ない3DOがゲーム機以外の道を選択した時点で3DOの成功は難
しかったのではないか?



 そして、第二の失策は、国内ソフトメーカーの取りこみに失敗した挙げ句、
安易に、海外ソフトを国内版にローカライズしてリリースし過ぎたことである。

 日本のゲームと海外ゲームのどちらかが面白いか、という話ではなく、おい
らが言いたいのは「外人の作ったゲームは基本的に日本人の嗜好に合わないも
のが多い」ということである。
勿論、素晴らしいゲームも数多く存在するが、一般的においらが洋ゲーといわ
れる外国産ゲームに抱いているイメージは「果てしなく大味で、根本的なとこ
ろでちょっぴり、どうかしているんじゃないかしらん?と思うゲーム」もしく
は、「姑のお掃除チェック並に些細な事を命がけで追求するゲーム」の両極端
である。

 おいらの友人に以前ゲームセンターの基盤のメンテナンスをする仕事をして
いた男がいるが、彼から聞いた話によると、アメリカではポリゴン格闘ゲーム
は受けない、そうである。
何故ならば、ポリゴンキャラの動きよりもモータルコンバットのような実写張
りつけ型の平面キャラの方がよっぽど「リアル」だと感じるかららしいのだ。
もう何年も前の話だから、情勢は変っているかもしれないが、少なくとも、日
本人と外人の間にゲームの嗜好の差があることは確かである。


 にも関わらず数を揃える為に、安易に海外用ゲームをリリースし過ぎてしま
った。このハードを洋ゲー専用機として位置付けて遊んでいるユーザーはとも
かくも一般ユーザーはこれではついて来ない。
松下に続き、三洋から、3DO TRYが、そして松下からも廉価版の3DO
RIAL2が発売されたが、予定されていた、後継機3DO M2の発売を待
つことなく3DOが国内市場から消滅した原因はここにあるのではないか、と
思っている。


 しかし短期間でも3DOというハードと付き合ったおいらとしては、この「
嵐の前の塵に同じ」だったハードにも間違いなく良いゲームは存在した、とい
うことを知っておいてほしいと思う。
3DOといえば、誰もが挙げるのはやはり「Dの食卓」だが、あのゲームは他
のゲーム機にも移植されているし、おいら個人の意見として言わせて貰えれば
それほど評価していないので、このゲームに関しては特にコメントすべき点は
ない。

 むしろ3DOでしか発売されず、現在はほぼ完全に忘れられてしまったゲー
ムに「チキチキマシン猛レース」「娯楽の殿堂」「時を超えた手紙」「西村京
太郎サスペンス・悪逆の季節」(松方弘樹主演)などの秀作、佳作、迷作があ
ったことを書いておきたい。



AXL 2001

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