レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

ファミコン的ジョイスティック・ラプソディ


 ファミコンの偉さはコントローラにある、とおいらは思っている。
今ならどのゲーム機を買ったところで付属のコントローラがゲームのプレイに
支障をきたすほど使いにくい、などということはまず考えらないが、ファミコ
ンが発売された頃はむしろゲームのプレイに支障をきたさないようなコントロ
ーラやジョイスティックが付属していることの方が稀であり、各メーカーは「
使い易くてどうするよ?」というような基本姿勢の元、殆ど海のものとも山の
ものとも分からないようなコントローラを作り続けていた。

 おいらが初めて触れたコントローラはジョイスティックタイプのもので、マ
ックスマシーンという半ゲーム機的なマイコン用のものである。
底面が掌くらい、ボディには赤いボタンがひとつだけついており、ゴム製のス
ティックは四方向入るようになっていたが、どういうわけかこのスティック部
分は力を入れてもほとんど傾かず大きさも中途半端でコントローラとしてはど
うにも不満なシロモノだったのだが、そのコントローラを使うべきマックスマ
シーン専用ゲームの方も複雑な操作や素早い操作を要求するようなゲームがな
かった為、こんなコントローラでもなんとかなっていたという背景もあり、こ
の辺はなんだか構造的癒着、というような感じがしないでもない。

 また、その後、MSXというパソコンを買った時にもジョイスティックが付
属していたのだが、これもなかなかにひどいシロモノであった。
見た目は、ファミコンで最初に出たジョイスティック(ファミリーキング)と
同じような感じで、スティックの先にトリガーボタンもついておりなかなか豪
華なのだが、床などに於いて使うには安定性が無さすぎ、さりとて左手で持っ
てやるには大きすぎるのだ。


 そんなコントローラが巷に溢れていた頃に登場したファミコンのコントロー
ラは長時間遊んでも手が疲れないし、微妙な操作もこなすことが出来る優れも
のコントローラだったのだ。

しかし、1985年。
ファミコン専用ジョイスティックなるものが突如として各社から一斉に発売さ
れることになる。
これは、それ迄主流だったアクションゲームに比べ、より複雑な操作を要求す
るシューティングゲームがファミコンでも主流になってきたことと大きく関係
しているのだ。

 実はこの当時、おいらはファミコン用ゼビウスの攻略本なるものを持ってお
り、そこにはその後映画で高橋名人と対戦することになる毛利名人(この時点
では単に毛利公信青年となっていた)が、アーケード版ゼビウスで1000万
点出せるヒトとして登場しており、ファミコンはジョイスティックではなくパ
ッドなので、微妙な操作、持久力を要する1000万点をスコアするのはアー
ケード版に比べて非常に難しいのだ、というようなことを前置きしつつ、2日
がかりくらいでファミコン版でも1000万点をスコアする・・・という何だ
か物凄いドキュメント風記事が掲載されていたのだが、清く正しく頭の悪い小
学生であったところのおいらは、「なるほど!あのようなコントローラではシ
ューティングには対抗できないのだ!」とあっさりと悟り、ファミコンにも専
用ジョイスティックを!と地味に叫んでしまったのだが、世間の方でもスター
フォースの登場、高橋名人等のゲーム名人(というか彼らはすべからく反射神
経ゲーム名人であり、パソコンの山下章のような「私に解けないADV(アド
ベンチャーゲームの略)はない!」と叫んでしまう、思えば風変わりなヒトは
最後までファミコンには現れなかったのは個人的には残念である)の登場によ
りジョイスティックを望む声は日増しに高まってきたらしく、ほぼ時を同じく
していくつかのジョイスティックの発売が各社から一斉に発表された。


 その中で一番最初に発売されのが「ファミリーキング」というジョイスティ
ックで、スティックの先にトリガーボタンがついていることと、1P用2P用
が別に存在する珍しいタイプのコントローラである。
赤と白のカラーリングから任天堂製純正ジョイスティックだった、という誤解
の多いコントローラだが、メーカーはスピタル産業という会社で現在でもPC用
コントローラの販売を行っている。
このコントローラの難点は上で例に挙げたMSX付属ジョイスティックと同じ
で、大きさがどうにも中途半端で、床等に置いても安定せず、手に持つには大
きすぎる、という点である。
第一号のファミコン用ジョイスティックということで連射機能なども付いてお
らず、これを購入した友人は購入の翌日から、一切このジョイスティックにつ
いて語らなくなってしまった。

 この後、アスキースティック、ジョイボールなどが発売されることになるの
だが、やはり純粋にコントローラとして見た場合には現在までシリーズ化され
ているアスキースティックに軍配が上がるだろう。
金属製のボディにゲームセンターで採用されているものと同じボタン、スティ
ックを配置したアスキースティックは当時のファミコン少年達の憧れの的だっ
たが、その分値段も高く、他のコントローラが3000円〜5000円程度だ
ったのに対して8000円くらいしていた為、おいらの周りでもユーザーは殆
どいなかった。

 ジョイボールは初の連射機能付きコントローラでHAL研究所が発売したボ
ールタイプのコントローラ。
スティック部分がボールの形になっており掌で包み込んで使う、という風変わ
りなものである。
これは未だに操作し辛いと評判が悪いコントローラなのだが、遊ぶゲームを選
ぶきらはあるものの、殊ゼビウスをプレイするにあたってはおいらは最高のコ
ントローラだと思っている。


 この後もファミコン末期のパワーグローブに至るまでおびただしい数のコン
トローラが各社から発売されることになるのだが、小学生当時、おいらの周り
でもコントローラを使っているユーザーというのは決して多くはなかった。
ファミコンの場合、一部コントローラでは操作できないゲームが存在した(け
っきょく南極大冒険等)こともあるが、なんといっても問題は価格だった。
パッドタイプはともかくスティックタイプとなるとどうしても3000円以上
はしたし、多くの小学生達はそのくらいのお金をかけるのなら新しいソフトを
1本買った方がいい、と考えていたのだ。

 おいらもジョイボールを買う迄は、きらびやかに並ぶファミコン用ジョイス
ティック達をショーウィンドウに越しに羨ましく眺めることしか出来なかった
が、そんな時、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

 それは「僅か500円でジョイスティックが売っている」というものだった。
早速、おいらは友人と共に噂の店にかけつけたが、そこにあったものは、ファ
ミコン標準コントローラの「十字キーの部分だけ」であり、しかもその十字キ
ーの真ん中からは長さ2cmくらいの棒のようなものが突き出ているのだ。

 つまり、標準コントローラの十字キーの代わりにこれを入れて使うことで、
ジョイパッドだったコントローラがジョイスティックになる、というのだ。
さらに、「このコントローラなら他のジョイスティックで遊べないけっきょく
南極大冒険等のソフトも全て遊べます!」と書いてあったが、当たり前である。
というか、そこまでして「けっきょく南極」がプレイしたいものか。

 普通なら半笑いのまま家に帰るところだろうが、おいら達は違った。
「これはスゲエ!」と感動し、争うようにしてその十字スティックを買い求
め自宅のコントローラに装着し、早速ゲームで遊んでみた。

「うぉー、すげー、めっちゃ操作しやすいよ、これ!」
「うん、オレいつもここ越せなかったもんなー!」

 ・・・熱に浮かされる小学生達は口々に謎の十字スティックを褒め称えたが
これらは全て単なる錯覚であり、悪い夢であった。
僅か2cmという短さでは当然スティックを手で掴むどころか指でつまむこと
も出来ず、必然的にスティックの先に親指の腹を当てて操作せざるを得ない。
しばらくゲームをしている内に親指の腹はスティックの形にへこんでしまい、
はっきり言って指が痛い上に十字キーのように指を置いた時に全く安定しない
のだから使いやすい筈はないのだ。

 結局、一週間後には取り外されることになる謎の十字スティックだったが、
こんなメーカー不明のアイテムまで下町のおもちゃ屋でひっそりと売られてし
まうほど、あの頃の小学生達はジョイスティックに憧れていたのだ。



AXL 2003

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