レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

「時空の旅人」


Media :FAMILY COMPUTER
Maker :KEMCO
種 別:アドベンチャーゲーム
発売日:1986年


 眉村卓原作でアニメ映画化された「時空の旅人」をゲーム化したコマンド選
択型アドベンチャーゲーム。
ちなみにタイトルは「時空」と書いて「とき」と読ませるのだが、この当時は
「宇宙」と書いて「そら」と読ませたりするのが流行っていたので、その名残
かもしれない。

 このゲームはヒトコトで言うなら「企画意図だけは物凄く面白そうなゲーム」
だ。
主人公はタイムマシンを操り時代を超えて旅をすることのできる「クタジマ 
トシト」という目も眩まんばかりに変な名前のヒトとなり過去に遡り各時代の
偉人達と会話をすることによって彼らに影響を与え、引いては歴史を変えてい
く・・・ということを目的としたいわばマルチシナリオアドベンチャーゲーム
なのだ。

 繰り返すがこの企画意図だけはこの当時にして非常に斬新であり、純粋に面
白そうなのだ。
しかし、悲しい哉、このゲームに対しておいらが褒めてあげられるのはあくま
でも「企画」までの話なのだ。

 例えば先ほど書いたような企画意図を元にマジメにアドベンチャーゲームを
作ろうと思うとクリエイター側にもプレイヤー側にもある程度の歴史的知識が
求められる。
主に中学生以下の子供達を対象としたファミコンのゲームとしては全体的に少
々敷居が高くなってしまうのも確かで、その為、各時代のシナリオそのものは
難しい歴史的問題を取り扱わず非常にデフォルメされたものになっている。

 例えば徳川家康と石田三成は秀吉亡き後の主導権ではなく、「雑煮」を巡っ
て言い争い、本能寺の織田信長は「女房がいるから死にたくない」などという
情けないことを言い出し、秀吉はキムチを食うために朝鮮出兵を志す・・・と
いう単なる「可哀想な子達」の物語になってしまっているのだ。

 ここまで来ると対象年齢の為にシナリオをデフォルメした、というよりも制
作者の頭がはじめからデフォルメされていたのではないかという気さえするが、
いわばこのゲームは「一切の歴史考証を放棄した歴史介入型マルチシナリオア
ドベンチャーゲーム」となっており、それは例えるならば、「一台も車が登場
しないグランツーリスモ」くらい意味のないものになってしまっている。


 ちなみにおいらは原作となっている眉村卓の小説、角川の同名アニメ映画
を共に見ていないので、原作の方は良く分からないのだが、案の定、原作と
のリンクは最小限度に留められており、そもそもがゲーム版の主人公、クタ
ジマ トシトというのが原作の敵役で、原作の主人公達に至ってはゲーム版
には登場すらしないのだ。
さらに原作のアニメ映画は1987年のお正月映画として86年12月20日に封切ら
れているが、ゲームの方は劇場公開から約一週間後の86年12月26日発売とい
うタイアップゲームとしては稀に見る絶好のタイミングを掴んでいるが、た
だ、このゲームに限って言えばあまりにも内容が酷すぎる為に、タイアップ
というよりは原作映画に対する「根拠なき誹謗中傷」にしかなっていない点
が凄い。


 尚、原作の映画は手塚治の「火の鳥・鳳凰編」と同時上映となっており、
この映画もkonamiからファミコン用アクションゲームとして発売されている
ことを考えるにつけ一体、何をトチ狂ってケムコが原作とのタイアップを取
り付けてまでこんなゲームをリリースしたのか理解に苦しむ。



AXL 2003

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