レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

「たけしの挑戦状」


Media :FAMILY COMPUTER
Maker :TAITO
種 別:アクション・アドベンチャー(?)
発売日:1986年


 ビートたけし原作という名目で発売されたファミコンソフト。
ジャンル的には謎解きアクションゲームといったところで、舞台は(発売当時
の)現代、主人公はしがないサラリーマン。
そしてこのゲームの場合、目的すらもプレイヤーには明かされないままゲーム
はスタートする。


 ところで、笑いのツボが違うというか、本人はボケてるつもりでも周りの人
間は引いてしまう。誰でも長い人生の中で一人や二人はそんな人に出会うもの
だ。
例えていうなら、窓をあけてテレビでも見ながら寝っ転がっていたら突然窓か
ら火のついたバクチクが投げ込まれ大騒ぎをする。
何事かと思ってやっと火を消し止めると、玄関のチャイムが鳴り友人が顔を出
す、そして彼は言うのだ。
「ねえ、今のびびった?面白かったでしょ?」

 ここまで極端な例は稀だとしても、全くシャレにならないことを「面白い」
と捉えやってしまう人というのは案外多い。

 「たけしの挑戦状」というゲームはまさにそのタイプで、確かゲームを先に
進める為にカラオケでファミコンの2Pのマイクを使い本当に歌を歌い、「う
まい!」と言わせた後で、2時間くらい一切コントローラーに触らずに放って
おく、というようなことをしなければならない箇所があったような気がする。
勿論、これに関するヒントは一切無い。

 これは多分、ボケのつもりだと思うのだ。
しかし、まるで面白くないどころか腹立たしい。
ビートたけし原作というタテマエをとっているので、ゲーム攻略にボケ要素を
もってきたのだと思うのだが、それがことごとく外れており、しかも、あまり
にも外れすぎて、ほとんど誰にもクリアできないような難易度になっている。
その難解さ、というより非常識さ故に、クソゲー、バカゲーというジャンルを
代表する、ある意味では伝説的ソフトとなり、ファミコン世代なら知らない者
はいないくらい知名度だけは高い。

 しかし、どいうわけかおいらは今までこのゲームのレビューを書くというこ
とを敬遠してきた。
特に、クソゲー、バカゲー系のレビューサイトに行けばまず間違いなくこのタ
イトルは名を連ねているし、理不尽な難易度、わけのわからない展開をひとつ
かふたつ例を挙げて紹介すれば一応このゲームを紹介したことにはなる、とい
うことは分かっている。
しかし、このゲーム、決してそれだけではないような気がするのだ。

 何も「たけしの挑戦状」を過大評価しようというつもりはない。
制作者側が意図的に超バカゲーのように装って実はその裏に真意を秘めていた
・・・というような高尚な話ではなく、制作者の全く気がつかないところで、
たまたま、全くの偶然で意外と深い方向性のようなものを示唆してしまったの
ではないか、と思うのだ。


 それは何かというと、徹底した世界観の確立である。
このゲームの舞台は、1986年当時のどこかの下町だと思うのだが、これが異常
にリアルに描かれている。
勿論、ファミコンなので画像表現には限界があるが、かつてこんなに生活観の
溢れたゲーム世界を描いたゲームは他になかった。
おいらは実際には行ったことが無いが、当時の言葉でいえば「浦安フラワー商
店街」的とでもいうのだろうか。
非常に人間臭い世界なのだ。

主人公が勤めるつぶれかけた会社や、オンボロ映画館、商店街には理髪店、花
屋、飲み屋、本屋などが雑然と並んでいる。
そしてその殆どの店に入店することが出来、金さえあれば買い物をすることが
可能なのだ。

 ただし、ここでの買い物はほとんど何の役にも立たない。
飲み屋に入って酒を注文すれば酒が呑めるし、理髪店で頭をカットすることも
可能なのだが、だからといって何がどうなるわけでもないのだ。
強いて言えば所持金が減るだけである。

 このゲームを先に進めようと思うのなら、先ほど書いたような理不尽極まり
ない「解法」に従って所定の操作を行わなければならない。
しかし、考えてみれば主人公はしがないサラリーマンなのだ。
ゲームクリアに向かう道はそんなしがないサラリーマンとしては異常も異常、
非日常のカタマリのような大冒険になっている。
逆に、この「何も起こらない空間」こそが彼の日常なのだ。

 その彼の日常の描かれ方において、このゲームは他に類を見ないくらい「リ
アル」である。
都合の良い偶然が起こるわけでも、簡単に奇跡が起こるわけでもなく、異常な
ことが何も起こらない世界、そこで何をしてもごく当たり前の反応しか返って
こない。
だから基本的には何の冒険も起こりえない。


 これは「絶対に冒険をしなくてはならない」ゲーム世界では逆に異常なこと
であり、非常に斬新なことなのだ。
しかし、しがない会社に勤めるしがないサラリーマンという舞台設定にから見
れば間違いなくこちらの方が正しいことでもある。
確かにしがないながらも日常生活が楽しめる、という割には、それに関するリ
アクションは乏しい。
例えば会社に毎日通って働くこともできないし、町を行く人々に台詞はない、
といった問題点(?)もあることはあるのだが、他にこれと類似するゲームが
無かった以上、価値はあったのではないだろうか?
少なくとも、おいらはこのゲームに出会ってから16年間、自分の中でこのゲー
ム消化しきれなかった理由はそういうことからだった。


 確かに、いわゆる「面白いゲーム」または「普通のゲーム」を期待して購入
したユーザーにとってみれば、このゲームは間違いなくクソゲーなのだが、仮
にこのゲームの詠う「挑戦」があの理不尽な攻略法の発見ではなくて、ゲーム
特有の「お約束」に対する「挑戦」だとしたら、また別の評価の仕様もあるの
かもしれない。



AXL 2002

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