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「ドラゴンクエストVI〜幻の大地〜」


Media :Super Famicom
Maker :ENIX
種 別:非リアルタイム2D RPG
発売日:1995年

 VII以降どんどん次回作発売までのスパンが短くなるファイナルファンタジ
ーとは対称的に作を追う毎にそのスパンが長くなるドラゴンクエストの6作目。
ちなみにI〜III(1986,1987,1988)までのロト三部作は年一作ペースだったもの
が、IV,V(1990,1992)登場までは二年になり、VI(1995)では三年、VII(2000)に
至っては何と五年を費やしている。

 というわけで、ファンにとっては毎回やきもきさせられるドラクエの90年半
ばに於ける最新作、また結果的にはオリジナル作品としてはSuper Famicom最終
作となったのが本作「VI〜幻の大地〜」だ。

 ロト三部作としてストーリー的に密接な繋がりのあったI〜III、そこからの
脱却を図り、壮大な叙事詩を描いたIV。
さらにそれをスケールアップして大河ドラマ的な物語に仕上げたV。
それに続くVIは実は後に発売されるVIIと非常に性格の近い作品となっている。
どちらもパラレルワールドのように並行して別の次元に存在するもうひとつの
世界の存在を主軸に描かれており、この二作品の類似性の高さは二本を並べて
みるとまるでVIがVIIのプロトタイプであるかのような印象を受けるほどだ。

 導入部のストーリーを簡単に紹介しておくと、ゲームをはじめた途端、魔王
の城に潜入するシーンからはじまるというこの種のRPGとしてはかなり掟破
りな展開から幕を開ける本作は、その直後の魔王との戦闘であっさりと破れ(
厳密にはまともに戦うことにすら叶わない)場面は一転、ベッドから転がり落
ちて目を覚ます主人公が描かれる。

 果たして先程の魔王との闘いは単なる夢だったのか、という大きな問いを残
したままでごく普通にはじまるドラクエの世界。
しかし、幻の大地というサブタイトルが示すように実際には、現実の世界と夢
の世界が並行して存在し、またそれらが交互に影響を与え合っているという不
思議な世界での大冒険のそれらはほんの序章に過ぎなかった。


 と、このようにドラクエとしてもかつてなかったほど凝った設定が用意され
ているのが本作、そして後に続くVIIの特徴ではあるのだが、正直に言ってどち
らの作品もやり終わった後にそれほど強く印象に残る作品ではなかった、という
のが個人的な感想だ。


 その原因はいくつか考えられるが、両作品に共通した展開としてある大きな
目標があってそこに向ってストーリーを進めていくというよりは、いくつもの
ショートストーリーの集合体として作品世界が構成されている点が挙げられる。
例えば本作の場合、「世界を支配しようとする魔王を倒す」というこの種のR
PGに於けるお約束的な一大目標はほとんど序盤といっていい段階で一応クリ
アされてしまう。
この後、主人公達は、本当の自分を探す為、或いは平和になった世界を見て回
る為に旅に出ることになるのだが、各地で体験するイベントの多くはそれぞれ
が独立している為にプレイ後にストーリーを総括しようとする場合、大筋には
あまり関係しておらずその点でどうしても印象が希薄になってしまうのだ。

 このショートストーリー形式をより突き詰めた形のVIIに至っては、RPG
作品としてかつてないほど膨大な量の物語が用意されていたにも関わらず、そ
の膨大さ故に個々のイベントを記憶することが出来ず、「なんだかとてつもな
く長いゲーム」だったということ以外、あまり記憶には残っていない。


 だからといって、旧来の大河ドラマ的なストーリー展開の方が優れている、
とは言えない(というより言いたくはない)とは思うのだが、殊ストーリーの
印象で言えば非常に薄い、というのがVI、VIIに共通する感想である。


 では、システムの面ではどう変わったか、というとこれまたVI,VIIは非常に
似通ったシステムを採用している。
それは「新転職システム」とでも形容すべきもので、IIIに登場しIIIの人気を
決定付ける大きな要因となった職業・転職システムをアレンジしてIII以来久々
に採用したのだ。

 IIIでの転職システムの場合、転職した時点で全てのパラメータが半分にな
り、レベルが1に戻ってしまう、という制約が存在した為に、考えなしに転職
を繰り返すと却って転職前よりも弱くなってしまう、という問題があったが、
VI以降に採用された転職システムでは好きな時に何回でも転職を行うことがで
き、転職することによるデメリットは一切なくなっている。

 これは例えば、レベル10の主人公がいて、このレベル10の主人公に何も
職業についていない状態のパラメーターと戦士や魔法使いなどのいずれかの職
業に就いた状態のパラメータが複数用意されており、転職を行うことで別のパ
ラメータに入れ替わるというシステムを取っている為で、仮に一度戦士などに
転職しても「職をやめる」ことによりすぐに元にパラメータに戻ることが可能
になっているのだ。

 勿論、職についている間に覚えた特技や魔法は忘れないので、気分次第で職
業を食い荒らしていってもプレイヤーへのデメリットは一切発生せず、なんと
いうかそれなりにメリット、デメリットを考えて慎重に行う必要があったIIIで
のそれに比べると「お子ちゃま向き」になってしまった感はいなめない。


 また、職業にはそれぞれ1から8までのランクがあり、このランクを上げる
為には戦闘経験値を集めることではなく、戦闘の回数をこなす必要がある。
それも自分のレベルにあったモンスターと戦うという条件もあり、この為、序
盤でも後半でも職業を極める為の苦労はそれほど変わらないように調整されて
いるのだが、逆に言えば全ての職業を極める為には膨大なプレイが時間が必要
となる上、経験値に左右されないので敢えて自分より強い敵と戦って短時間で
ランクを上げたり、逆に時間をかけて安全にランクを上げるというプレイヤー
の癖のようなものも反映させ辛くなってしまっている。


 とはいうものの、志ん生の火焔太鼓かなんかをBGMにコーラとタバコを用
意して、だらだらとひたすら時間を浪費して、ちまちまと敵と闘い続ける、と
いうスタイルのプレイ方法が好きで好きでたまらない、と人前ではっきり言え
てしまうおいらのような若干可哀想なおヒトにとって、これは一種の天からの
贈り物であり、膨大な時間をかけ少しづつプレイキャラ達を強くしていき、あ
まりにも多様な職業を極めすぎて、ラスボスでもほとんど手に負えないくらい
強いキャラクターを作ってしまえる、というこのシステムはプレイ中はなかな
かに楽しむことが出来た。


 ところが反面、このシステムで本当に全ての職業を極めてしまった場合、キ
ャラクター毎の個性というものは個体差によるパラメータの違い以外には全く
なくなってしまい、なまじそれぞれサブストーリーを背負ったプレイキャラが
用意されているだけに全ては全く同じ特技や魔法を持ち、全く同じ攻撃で淡々
と敵を倒していくだけの沈黙のターミネーター軍団が出来上がってしまうのだ。

 この為、ストーリーの印象の希薄さに加えて、キャラクターへの思い入れと
いう部分でも印象は薄くなってしまい、どちらもやっている時は楽しいのに、
いざエンディングを迎えてしまうと、記憶に残らない作品となってしまってい
る。



AXL 2003

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