レトロゲームレビュー/名作、クソゲー等ファミコン時代から網羅

「エキサイトバイク」


Media :Family Computer
Maker :任天堂
種 別:モトクロス・レースゲーム
発売日:1984年

 1984年に任天堂が発売した、モトクロスを題材としたレースゲーム。
このゲームの発売に前後して任天堂は、それまで一律3800円で販売していたフ
ァミコン用ソフトを旧作も含めて4500円に値上げしている。
理由については、ROMカートリッジの材料となる半導体の価格が上がったことに
起因するらしいのだが、旧作のテレビゲームが値上げされるというのは、およそ
前代未聞であり、この年の夏に参入した初のサードパーティ、ハドソンがファ
ミコン・デビュー作となるロードランナーとナッツ&ミルクをそれまでの任天
堂製ソフトよりも700円高い4500円で発売したが、非常に好調な成績を収めたこ
と、ナムコが発売予定ラインナップにゼビウスを引っさげて颯爽と参入した時
期にも重なる為、「強気の値上げ」だったのではないかと邪推してしまう。

 4500円への価格底上げだけでも、当時の小学生ユーザーにはショックだった
が、この年のクリスマス向けに発売された任天堂の新作「エキサイトバイク」
の価格5500円は衝撃的だった。

 旧来のファミコンソフトと比べて1700円も高額であり、値上げ後の基本価格
と比べても1000円も高い。
今のおいらなら「てやんでえ、バロー、チキショー、大名商売しやがって!中
古で2000円を切るまで意地でもかわねー!」と一人侘しく日本酒でも傾けると
ころだが、当時のおいらは単純な子供だった。

「こんなに高いということは、素晴らしく面白いゲームに違いない」

 何も疑うことなくあっさりとそんな風に考えてしまう「可哀想な子」であっ
た。

 それにしても、エキサイトバイクというソフトは不思議なゲームだった。
任天堂は同時期にF1レースというゲームも発売しているが、元々それまで任
天堂が作ってきたゲームのジャンルにレースという項目はファミコン以前の非
カートリッジ式のテレビレースゲーム機「レーシング112」というものを除いて
は存在しなかったのだ。
今でこそ、マリオを筆頭にゼルダにFゼロ、スターフォックスとほとんどのジ
ャンルを網羅しているメーカーになったが、当時としては、画面固定型のとっ
つきやすくて奥が深いアクションゲームを最も得意とするメーカーで、シュー
ティングだの、レースだのといったいわゆる「男の子っぽい」ゲームには無縁
のメーカー、というイメージが強かった。

 それでもF1レースの方は、当時のテレビゲーム・メーカーが、「シューテ
ィング」「アクション」「スポーツ」「レース」といったスタンダードものは
とりあえず一通りそろえておく、という暗黙の常識に従ったもの、と受け取る
ことが出来たが、エキサイトバイクの場合、題材となるモトクロスが決してメ
ジャーなモータスポーツではない上に、テレビゲーム化されたもの恐らくはこ
のゲームが初めてであり、非常に異彩を放っていた。

 しかしながら、「可哀想な子」であった当時のおいらはまたも単純に「すげ
ー!モトクロスってゲームになるほどメジャーなんだ!機会があったら勉強し
よう!」と思い込んでしまった。
おいらの友人達もさほどレベルは変わらなかったらしく、発売前に初めてテレ
ビ「エキサイトバイク」のCMが流れた翌日、「凄い!あれは凄いゲームに違
いない!一生やっても飽きないよ、あのゲームは!」などととんでもないこと
を断言して、まだクラスでは数少なかったファミコンユーザーのおいらを煽っ
てくれた。

5500円=めちゃくちゃ面白い何よりの証拠。
モトクロスが題材=ゲームにするほど面白いモータースポーツである証拠。
一生飽きないという友人の証言=さもありなん。

 全て単純に納得してしまったおいらは、クリスマスに喜び勇んでエキサイト
バイクを購入しに行った。

 ゲームの方は、小学生の頃に「勉強しよう!」と誓いを立てておきながら、
いまだにモトクロスのことは全然詳しくないので、はなはだ不安のある説明に
なってしまうが、いわゆるモトクロスでレースをするのである。

 モトクロスだけあってコースは障害コースで構成されており、転倒しないよ
うに前後にバイクのバランスを取りながら(つまり、着地時にバイクと地面が
並行になるように調整しながら)走りぬけ、順位を競うというもので、3位以
内に入賞すれば次のステージに進むことができる。
モードは、シングルレースのセレクション A、他のライバルと順位を競うセレ
クション B、そして、オリジナルコースをエディットすることができるコース
エディットの3項目で構成されていた。
また、ファミリーBASICと専用データレコーダを使ってカセットテープに
データ保存することもできた。

 確かにレースゲームのコースを自作できるというのは、それまでにない非常
に魅力的な機能であり、特にエキサイトバイクの場合、コースが起伏に富んで
いる為に非常に作り甲斐もあった。

 ・・・・が、しかし、なんだか違うのだ。
このエキサイトバイクというゲーム、決して悪いゲームではないと思う。
やり込み甲斐もあるし、難易度もちょうど良いし、プレイ中の緊張感も申し分
ない、任天堂ゲーム特有の噛めば噛むほど味があるゲームの1本であることは
認めよう。

 とはいえ、「一生飽きない!」と言われ強気な価格から「驚天動地の面白ゲ
ーム」を期待していたおいらにとっては、正直イマイチなゲームに映ってしま
ったのだ。
おいらがモトクロスというモータースポーツに一方ならぬ興味を持っていれば
また違ったのかもしれないが、おいらは今も昔もモトクロスに対しては「ああ、
モトクロスだなあ」という程度の感慨しか抱けないオトコなので、この点でも
失望してしまった。
つまり、購入前に期待していたことが全て裏目に出てしまったのだ。

 ところで、購入第一目のプレイは、「一生飽きない!」とおいらを煽りおも
ちゃ屋まで同行した友人と二人で遊んだのだが、おいらは内心そんな失望を敢
えて抱きつつもそれは口にしなかった。
CMを見ただけで「一生飽きない!」とまでおいらに吹き込んだ友人のことを
思えば、いかになんでもそれはあんまり、という気がしたし、彼も悪気があっ
て言ったわけではないのは分かっていたからだ。

 だから翌朝、いつものように教室で会った彼に、おいらは明るくこう言った。

「エキサイトバイクだけどさ、結構面白いじゃん!」

 しかし、あろうことか「は?何言ってんの?コイツ?」といわんばかりの表情
を浮かべてこう答えた。

「そーおー?全然面白くないよ、あんなの!」


 ・・・・おいらが生まれて初めて辞書で「悪気(わるぎ)」という言葉を引い
たのは、その日の午後だったと記憶している。



AXL 2002

HOME