■収入って何? 平均報酬額1700万円の「罠」
私が勉強し始めたとき受験予備校のパンフレットでは、司法書士の平均年収1400万円となっていた。年収だけに惹かれたわけではないが、2〜3年試験勉強に専念しても年収1400万円なら、十二分に元は取れると判断して司法書士業界に入った。正直言うと受験予備校のワナにはまったというのが本音だ。1400万円の情報の出典や表記方法を覚えていないが、純所得ではなく平均報酬額、つまり売上だったのだ。
日本司法書士会連合会の「全国会員一人当りの年間平均報酬額(日司連取扱事件年計報告集計表)」で平成6年の平均報酬額は1452万7851円、平成7年は1663万2227円、平成8年は1692万4414円となっている。すでに10年以上前のデータだが、景気の動向を加味して考えても、現在も1700万円ぐらいと考えてもよいだろう。実際の年収(純所得)は、報酬額から事務所経費を差し引いた数字となる。
■経費率が50〜70%なら、年収(純所得・収入)は510〜850万円
仕事をするには経費は当然かかる。例えば毎月の経費として事務所家賃10万円、補助者人件費(正職員1人・アルバイト1人)35万円、ファックスや司法書士業務ソフト等のリース7万円、通信費5万円、光熱費2万円、交通費5万円、接待交際・福利厚生費5万円、新聞書籍代5万円、駐車場1万円、その他諸会費・消耗品等5万円で合計80万円。年間総経費960万円なら、純所得は740万円となる計算だ。
年商1700万円を上げるには、月の売上は約140万円だ。不動産登記の決済や相続登記が1件8〜14万円、抵当権抹消が1件2〜3万円、商業登記の役員変更1社2万円ぐらいとして月の仕事量をシミュレートしてみよう。決済・相続10件(2日に1件ペース)で約110万円、抵当権抹消を6件で15万円、商業登記8件(1日1件)で16万円、合計で141万円。
一般ビジネス社会で切磋琢磨してきた人でコミュニケーション能力がある人であれば、簡単にクリアできると個人的には思うが、「資格さえ取れば何とかなる」「勉強は好きだが、対人関係は全くダメ」等の人にとっては高いハードルなのかもしれない。
■勤務司法書士なら年収300万〜400万円スタート
有資格者でも月給20万円ぐらいからのスタートの事務所も少なくない。ボーナスを夏・冬で計4ヶ月計算なら年収320万円だ。正直、実務能力が備わるまでは、例え司法書士登録者であっても、収入は一般大手企業に就職している人には敵わないだろう。
いきなり有資格者でありさえすれば40〜50万円スタートの事務所もあるが、必ず何か高く支払わざるを得ない特別な理由がある。実務経験を積んだ上で、パートナー司法書士という位置付けであれば、年収1000万円というのもありえる話だ。
■司法書士は儲かる資格か?
古いデータになるが「司法書士実態調査」(平成2年12月実施。回収数10,351)によると、司法書士事務所の年間報酬額500万円以下が25.13%である。バブル期でも売上500万円以下が4分の1を占めていたのだ。一方で3000万円以上が20.7%となっている。誰もがボロ儲けできる業界でないことがわかるだろう。
◆司法書士事務所の年間報酬額
0〜
500万円 |
500万円〜
1000万円 |
1000万円〜
1500万円 |
1500万円〜
2000万円 |
2000万円〜
2500万円 |
2500万円〜
3000万円 |
3000万円〜
|
25.13% |
17.64% |
13.94% |
9.79% |
7.90% |
4.90% |
20.7% |
合格して研修を受け、実際に現場に出て思うことだが、司法書士の仕事は隣接士業の弁護士や行政書士等と比べて公益的な性格が強い仕事である。登記を中心とする司法書士業務(簡裁代理等関係業務を除く)は、紛争性がなく法務局の下請け的な位置付けの独占業務であることに起因する。儲かる仕事かと聞かれれば、参入障壁が高いから個人的には儲からない仕事ではないが、「儲ける仕事ではない」と答える。
儲けることだけを考えるなら、わざわざ司法書士資格を苦労して取らなくても、不動産会社とか起業した方が儲かるだろう。
■A事務所の開業3年の売上げデータを公開!
司法書士A事務所は、不動産登記を中心とする事務所である。不動産会社を中心に地道に営業し、新規開拓をしていった。不動産会社からの紹介等で、相続登記や商業登記も年々増加。不動産会社への営業と言っても、「飲めや歌えや」の接待はせず、「1つ1つの仕事で信頼を得て顧客開拓をする」をモットーに仕事をしたとのこと。真面目に頑張れば、試験も仕事も絶対に成功すると信じたいものだ。
|
1年目(9月開業) |
2年目 |
3年目 |
年間報酬額 |
300万円 |
3000万円 |
5000万円 |
人数(本職含む) |
3人 |
6人 |
8人 |
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