Wild Goat Style
アイオリス地方のWild Goat
Styleはラリサ(Larisa)を中心に出土した様式とピタネ(Pitane)中心のものの二つの様式があるが、出土地がそのまま製作地であったとは言い切れず、いまだ解明されていない[1]。
ラリサの様式のほうを見ると、亜幾何学様式の陶器の後、プリミティブな山羊の像や空間充填文を用いた、一見Early
Wild Goat Style的なものが作られるようになるが、実際にはイオニア南部のMiddle
I期とII期の転換期に作られたものであった。
クローバー型の口縁部を持つオイノコエのほかにもスキュフォスクラテル、プレートなどが作られ、その多くにはクリーム色の化粧土が施された。装飾には赤と黒のほかに、動物の腹部などに紫が用いられた。動物はやはり山羊が多いが、鹿や水鳥はまれで、逆に馬や人物が描かれることがあった。空間充填文は十字や卍をベースにしたものが多く(fig.1-3)、枠の上下に沿って三角形の文様が描かれるが、他の地域と異なりその両辺に縁取りが施されているのが特徴であり、またその側面は膨らんでいる。
連続文ではロータスやメアンダーのほか、イオニア南部のMiddle
I期に見られた連環文が好まれた。その年代はまだ明確にはなっていないが、様式から七世紀の第四四半期から六世紀の前半に位置づけられる。
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fig.4
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一方ピタネ出土のものは陶土および彩色の色彩はラリサのものと大差はない。器形ではスキュフォスクラテルがないこと、幅の広いアンフォラが最も好まれている点がその相違である。脚付きのプレートのほかディノス、鉢なども作られた。そのアンフォラの装飾は頚部に連環文が配され、肩には動物が描かれるが、裏側にはその代わりにロータス文が描かれることもあった。その下段には連環文などシンプルなものが多く、胴の下半部は何も描かれないか、簡単な線のみであった。
描かれる動物の種類は多く、山羊、鹿、水鳥のほかに馬、ライオン、スフィンクス、さらには人物も登場する。空間充填文はラリサのものほど種類が多くなく、描かれる量も少ない。三角文はラリサ同様縁取りがあるが、側面はストレートになっている。この様式は黒像式とは無縁で、年代は六世紀の前半だが、中には七世紀末に位置づけられるものもある。
ピタネ出土ながらこれら二つの様式とまったく異なるのがロンドン・ディノス・グループと呼ばれるもので、ディノスのほかにもプレートやアスコスが作られた。最も多く描かれるのは山羊で、まれに犬や水鳥、猪なども描かれた。空間充填文は概して大型で、太い線で描かれる。その描写はアイオリス的だが、画面の上面から垂れ下がるように描かれた数本の線からなる装飾はイオニア北部に特徴的なものである。
様式的にはイオニア南部のMiddle
II期に近いが、その影響はあくまで間接的なものである。いまだ決定的な証拠はないが、馬蹄形の装飾が見られないというアイオリス式に共通する特徴などからも、この様式もこの地域で描かれたとすべきではないか。年代は六世紀の第一四半期に位置づけられる。
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アイオリス地方については、Cook,R.M.
East Greek Pottery (1997),
pp.56-61参照。またラリサ出土の陶器については、Boehlau,J.
, Schefold,K. Larisa am Hermos
3 (1942) 参照。 |
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